【独占インタビュー】日本製鉄・橋本英二会長「USスチールの買収チャレンジは日鉄の社会的使命」、社内の賛否両論を押し切った決断の経緯
日本製鉄が仕掛けた米鉄鋼大手・USスチールの買収案は、トランプ次期大統領をして「私なら即座に阻止する。絶対にだ」と言わしめ、経済安全保障上の争点にまでなっている。買収の審査が最終局面を迎えるなか、渦中の日鉄・橋本英二会長(69)が、ノンフィクション作家・広野真嗣氏の独占インタビューに応じた。(文中敬称略) 【写真】日本製鉄による買収支持を表明するUSスチール社の従業員
「アメリカが魅力的になったのは、トランプが1期目の大統領になった2016年以降ですよ」 そう明かすのは、日本製鉄会長の橋本英二だ。昨年12月にアメリカの鉄鋼大手USスチールを2兆円で買収する計画をぶち上げた。社員11万人の巨大企業を率いるトップで、次期経団連会長の呼び声も高い。 今、最も注目を集める経営者だ。 当初は今年9月までにUSスチールを子会社化する予定が、大統領候補だったトランプが買収に反対する労組票を狙って今年1月に「阻止する」と唱えると、選挙の争点に浮上。政府の判断が延期されている。当選後もトランプは「全面的に反対する」「買収者は注意しろ」と脅すが、バイデン政権下で、審査は大詰めを迎えている。 トランプに睨まれる位置にいる橋本が、8年前のトランプ政権誕生時に米国市場の魅力を感じたというのは逆説的に響く。 かつて内需企業と思われてきた日鉄だが、橋本が買収を足がかりに膨らませる世界戦略は実現するのか。
アメリカで起きたパラダイム転換
11月末、丸の内の本社の応接室に現われた橋本は、グレーのスーツ姿にフランクミュラーの腕時計をつけていた。上品だが、華美ではない。 橋本は8年前に何を感じていたのか。振り返ると「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」と唱えたトランプは、日本車への追加関税をちらつかせるなど海外企業の締め付けに心血を注ぎ、脅威と受け止められていた。 だが、製造業の未来に焦点を絞っていた橋本の見方は少し違った。 「これは、製造業をアメリカ国内に取り戻す動きで、時代が変わったなと。“アメリカで売りたければここにきて作れ”ということですよね。つまり高級品主体の鉄の需要が最終消費地のアメリカに戻る流れが始まった」 それまでアメリカではパソコンや携帯電話などの工業製品は安くて高品質の完成品を中国や日本から輸入することが国益につながるとされてきたが、パラダイム転換が起きた。橋本が続ける。 「もともとアメリカは出生率も高く、移民で人口も増えていて、軍事や科学技術、資源もある。アメリカファースト、と唱える大統領が登場したわけで、鉄の需要が高まる流れは、今後も大なり小なり続く。だから、新興国のインドに加えてもう1つ、先進国のアメリカを手に入れなくてはいけない、と考えた」
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