集英社『世界の歴史』が22年ぶりリニューアル! 担当編集に聞く「大人が読んでも面白い学習まんが」の魅力とは?
■この作り方をタイムカプセルに残したい ――判型が小さくなりソフトカバーになったのはなぜですか? 加藤 『日本の歴史』も同サイズ(四六判)で出したんですけど、やはりハードカバーというのは耐久性が高いので図書館とか学校の図書室には向いている一方で、家で読むことを想定するとスペースを取ってしまいます。それを考えると、コンパクトで軽く持ち運びやすいというのは大きな利点です。とはいえジャンプコミックスよりは大きいので文字が小さすぎるということもありません。 ――ずばり、『世界の歴史』は他社からも出版されていますが、集英社の『世界の歴史』が他社と違うのはどこですか? 加藤 高校の学習指導要領が2022年に新しくなりましたが、他社の『世界の歴史』はすべてそれより前に出版されています。つまり我々は教科書が新しくなったのを見てから出せたので、学習まんがとしての信頼性はよそより上を行けていると思います。 もうひとつは、集英社の『世界の歴史』はマンガ編集の経験がある人間が作っているということ。「学習まんが」ではあるけど、マンガ自体の面白さをきちんと貫いています。 教科書の表現って、「誰々がどこどこに侵攻し、〇〇国を滅ぼした」みたいなことの連続ですが、その奥にはさまざまなねらいや思いがあるはずです。そういう、教科書ではフラットに書いてあって踏み込めない部分を、マンガだとドラマとして描けるんですよね。そういう意味では、集英社にはマンガに対する経験や蓄積がありますので、クオリティはとても高くなっていると思います。 ――ちなみに制作期間はどれくらいかかっているんですか? 加藤 『日本の歴史』のリニューアル版、全20巻が出たのが2016年で、次はもう『世界の歴史』を作り直すんだという話になっていたので、実質でも5年以上はかかっています。特にコロナ禍もあって、関係スタッフとのコミュニケーションが取りにくかったり、進めにくいのがあったりして、思いのほか壮大なプロジェクトになりました。 ただ、5年以上かかったことで「集英社創業100周年企画」の1発目、皮切りになることができました。結果的にラッキーだったと思います。 ――校正、校閲、ファクトチェックなども大変だったのでは。 加藤 本当に大変でしたが、各巻に監修の先生がついているので、とても細かいところまで見てくださって、本当にギリギリまで校正作業を行っていました。 割とギリギリのタイミングで、ちょっとした背景に対して「この建物、なんですか?」と指摘を受けた時があって、急遽資料をよく調べ直したらやっぱり違ってた、なんてこともありました。 マンガ家の先生とのやり取りも、普通のマンガよりも何往復もします。自分が描きたいものを描くということ以上に、監修に沿ったものを描かなければいけないし、ファクトチェックによる修正も多いので、まんが家の先生にはストレスのかかる仕事をお願いしたと思います。 ――制作に5年となると、人の移り変わりもあったと思います。 加藤 最初にプロジェクトの立ち上げにいた人が、異動や退職、定年などで入れ替わっているので、編集部全体で携わったと言っていいと思います。ただ、前回出たのが22年前なので、前任者がいない状況で作るというのは、まるで未知の山を登るような仕事でもありました。 今回は22年ぶりのリニューアルということで、このバージョンを今後20年販売し続けるつもりで、それに耐えうるものにしたいと思ってはいました。ある意味で受け継いでいく財産ですね。問題は、次のリニューアルが20年後だとすると、今回のノウハウが引き継がれないことですね。なので、何でも資料を全部クラウドに残してタイムカプセルみたいにしたいですね。 *** ■集英社版 学習まんが 世界の歴史 発売日:2024年10月4日(金) 定価:(各)1,100円(税込) 全巻セット定価:19,800円(税込) 詳細: 取材・文/酒井優考 撮影/山添 太