『型破りな教室』学び方で人は変われるか? 一人の教師による授業革命が、映画の枠組みを超え我々の心をも突き動かす
観客を突き動かす「きっかけ」としての映画体験
本作に触れてひしひしと感じるのは、この型破りな教室全体がいまや救命ボートではなく一つの堂々たる船のように波を越え、大海原を突き進んでいこうとするダイナミズムである。いまにも『いまを生きる』の「おお、船長よ!」という詩が蘇ってくるかのよう。重要なのはここに立つ生徒たち一人一人が、自らの人生の舵をしっかりと握る掛け替えのない船長であるということだろう。並外れた頭脳を持つ少女パロマに至っては、海や空を飛び越え、もはや宇宙船を思い描いているのにもイマジネーションの広がりを感じる。 キャストの中にはこれが初めての演技挑戦という子供も大勢いたという。そのため、現場では常に3つのカメラを同時に回す手法を取り入れ(ロバート・アルトマンのそれに倣ったものだとか)、子供らがどのカメラで撮られているのか気にすることなく即興性と瞬発力に満ちた存在感を存分に発揮し、またスタッフもそれを逃さず映し撮れるようにした。 それだけではない。ここのところ、映画監督としての方向性を見失っていたクリストファー・ザラ監督や、従来コミカルな役柄ばかりで浸透していた俳優のデルベスにとっても、今回の映画は大きな一歩であり、挑戦だった。 従来のイメージや手法の殻を破り、好奇心と情熱が赴くままに自らを大いに解き放つ。この映画はそうやってキャストやスタッフ一人一人が唯一無二の要素となって固く組み合わさって生まれた結果でもあるのだ。 素晴らしい映画とは、決して感動の涙ですぐに洗い流されるものではなく、作品に触れた人の心を突き動かし、次なる行動や衝動へ向かわせてくれるものなのだろう。それは本作で生徒らが辿る「学び」の循環ともよく似ている気がする。幾つになって学びは終わらない。これは我々にあらゆる意味でのきっかけや気づきをもたらす作品である。 文:牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU 1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。 『型破りな教室』 配給:アット エンタテインメント 12月20日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開 ©Pantelion 2.0, LLC
牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU