日本の輸出先1位は中国じゃなかった/木暮太一のやさしいニュース解説
そして、冒頭の話の通り、この新しい貿易統計で考えると、日本の最大の輸出先は、実はアメリカだったのです。つまり、日本は中国に売っていると見えて、じつはアメリカに売っていたのです。 ―――「なんで新しい計算方法で統計を出すの?」 その方が、経済の実態を正しく表すからです。 これまでの統計では、たとえA国でほとんど手が加えられなくても、場所を経由しただけでA国の輸出として計算されます。 ですが、それは貿易の実態を正しく表していません。 たとえば、デジタル機器は、中国本土や台湾で組み立てて世界に輸出されています。しかし、多くの部品は日本製です。日本の技術が多く組み込まれているのです。 だとしたら、アメリカは中国や台湾だけでなく、日本からも商品を買っているとみなすべきです。
GDPの計算も付加価値ベース
―――「本当にそうなの?」 この付加価値をベースにした統計は理にかなった考え方で、そもそもGDPを計測する時には、各経済主体の「売上」ではなく、付加価値を積み上げて計算されています。 たとえばこういうことです。 ・農家が小麦を製粉所に50万円で売ります。 ・その小麦を使って製粉所が80万円の小麦粉を作ります。 ・その小麦粉(80万円)をパン屋が仕入れて100万円のパンにして売ります。 この時のGDPは、それぞれの売上を足した230万円(=50万円+80万円+100万円)ではありません。 GDPは「売上の合計」ではなく、「生み出された付加価値の合計」です。なので、正しくは ・農家が生み出した付加価値 50万円 ・製粉所が踏み出した付加価値 30万円(80万円-小麦50万円) ・パン屋が生み出した付加価値 20万円(100万円-小麦粉80万円) これらを合計した100万円(50万円+30万円+20万円)がGDPに加算されます。 ―――「売上で考えちゃいけないの?」 もし、単純に「売上」で考えてしまうと、間に流通業者や転売者が入れば、それだけでGDP(国の経済の規模)が大きくなります。 農家が50万円で売る→卸業者が55万円で売る→2次卸業者が60万円で売る→製粉所が80万円で売る→…… とすれば、いくらでもGDPを増やすことができるのです。ですがこれは統計として正しくありませんね。だから付加価値で考えるのです。 同じように、貿易統計でも本来は「売上」ではなく、「付加価値」で考えるべきです。新しい貿易統計では、これと同じように計算されているということですね。