「歴史あるサーキットが変わっていく様子は興味深い」伝統を守りつつ、新時代を生き抜くための海外視察/斎藤毅ホンダモビリティランド社長インタビュー
2024年シーズン、何度かF1グランプリが開催されているサーキットで鈴鹿サーキットを運営しているホンダモビリティランドのスタッフの方たちの姿を目にしてきた。そこでイタリアGP期間中にモンツァを訪れていた斎藤毅社長に、積極的に海外視察を行う目的と今後の鈴鹿サーキットについてうかがった。 【写真】2024年F1第4戦日本GP 鈴鹿サーキット ──────────────────────────────── ──F1イタリアGPが行われていたモンツァを視察した目的はなんですか。 斎藤毅ホンダモビリティランド社長(以下、斎藤社長):我々はこれから訪れる新しい時代のなかで、伝統的なサーキットが生き残っていくために、どのような改善が必要かということを考えています。そのなかでモンツァは我々鈴鹿と同じように伝統的なサーキットです。そのモンツァが伝統を大切にしつつ、どのようにして今日までF1を継続してきたかを現場で実際に見て勉強させてもらうために訪問しました。 ──モンツァ以外にも今年、何度かホンダモビリティランドのスタッフの方たちがF1が行われているサーキットに来ているのはそのためですか。 斎藤社長:私も他に7月にシルバーストン・サーキットと、F1ではありませんが5月にMotoGP第6戦カタルーニャGPが行われたカタロニア・サーキットへ視察に行きました。当社のメンバーもいくつかのサーキットを視察しています。 ──海外のサーキットを視察してみた感想はいかがですか。 斎藤社長:歴史のあるサーキットがどのように変わろうとしているのかを拝見することがとても興味深いです。カタロニア・サーキットもシルバーストン・サーキットもそしてこのモンツァも問題意識を持って、次のステージへ進むためのさまざまなチャレンジを行っています。 ──今年は鈴鹿で春にF1日本GPが開催されました。初めての春開催はいかがだったでしょうか。 斎藤社長:初めての春開催だったので、当然ながら不安材料はありました。さらに今年は、昨年の日本GPが秋に開催されていたため、準備期間が半年しかありませんでした。また日本の春というのは年度頭で一年で一番忙しい時期です。そんななかでお客様が本当に足を運んでくれるのかという不安もありました。しかしながら、実際に蓋を開けてみると、そういった不安は杞憂に終わり、多くのお客様にお越しいただきました。さらに天気にも恵まれて、桜の開花が若干遅れたことで、満開のなかで開催できました。秋開催のときには常に天候に悩まされましたが、今年はそういったこともなく、日本のよさを十分に味わっていただきながらレースが開催でき、非常によかったと思います。 ──来年に向けての改善点は? 斎藤社長:いろいろありますが、まずは来ていただくお客様がより快適に過ごせる環境を整備することです。そのために、ホスピタリティエリアを見直したり、ファンゾーンの改善などを行ったりすることで、お客様により楽しんでいただけるようにしていきます。また二酸化炭素削減にどれだけ取り組んでいけるかも我々にとっては重要な課題です。 ──8月には、2025年のレースシーズンに向けてピットビル3階のホスピタリティテラスの改修工事を行うと発表しました。これまで3階は自然光を活かした開放的な空間から観戦できるホスピタリティテラスでしたが、2025年シーズンに向け、ホスピタリティテラスの一部を居室化することになり、2階のホスピタリティラウンジ同様、室内でゆったりと観戦できる空間として生まれ変わるそうですが、それも改善の一環ですか。 斎藤社長:そうですね。来ていただいた方に快適に過ごしていただくという観点から我々としては3階のホスピタリティエリアの一部を見直し、改修していくことにしました。ホスピタリティエリアだけでなく、来場された方に満足していただける環境づくりを徹底してやっていきたいと考えています。 ──逆に鈴鹿サーキットが大切にしているものとは? 斎藤社長:ひとつは鈴鹿が大切にしてきたサーキットとしての伝統です。世界中のレーシングドライバーのみなさんから愛されているレーシングコースという部分は守っていかなければなりません。素晴らしいコースで最高のレースを提供するという我々が持っている基本的な考え方は今後も続けていきたい。ただ新しいファンも増やしていかなければならないですし、インバウンドによって日本を訪れる方々にも鈴鹿に足を向けていただくための工夫、エンターテイメントなどを含めた環境づくりをいままで以上に充実していかければならないでしょう。レースだけでなく、全体のパッケージとして鈴鹿で楽しんでいただけるようにしたいと考えています。 ──最近のインバウンド需要を狙って、大阪でもF1誘致を目指す動きがあります。このことについて、どのような感想を持っていますか。 斎藤社長:大阪の件は、我々として特に申し上げることはありません。我々が考えなければならないことは、いかに鈴鹿で行われるレースでお客様に楽しんでいただくということに100%の力を注力すること。自分たちの環境をいかに改善していくかということに、全身全霊を注いでやっていくだけです。 ──1カ国1開催という原則を考えると大阪は鈴鹿にとってライバルだと思いますが、伝統的なヨーロッパでのF1開催が減少していくなか、日本で複数のプロモーターが開催に手を挙げているという状況は、日本のモータースポーツ界にとって決して暗い話ではないと思いますが、そのことについてはどういう考えですか。 斎藤社長:多くの人たちがモータースポーツに関心を持ち、それをイベントにしてやっていこうという機運が出てきているという点では、日本のモータースポーツ界にとって喜ばしいことだと思います。そのうえでいま日本でF1グランプリを開催する我々がしっかりとその役割を果たし、皆様の期待に応えていくことが大事だと思っています。 ──最後に2025年の日本GPに向けての抱負をお願いします。 斎藤社長:今年初めて春開催を経験できたことは、我々としても大きな自信となりました。と同時に課題も見えましたので、2025年は来ていただく皆様に、今年以上に喜んでいただけるような環境づくりをしっかりと行い、より多くのお客様に来ていただけるよう努力していきたいと思っています。 [オートスポーツweb 2024年10月07日]