自社グループのDX戦略を加速するためのIT組織の在り方と再編のポイント
Ridgelinezが支援するIT組織の変革プロジェクト 最後に、Ridgelinezが現在サポートしているIT組織再編のプロジェクトの中から3つの事例をご紹介したい。企業の規模や変革に取り組むきっかけはそれぞれ異なるものの、いずれもグループにおけるDX戦略を加速する組織づくりの貴重なモデルケースであることはご理解いただけるはずだ。 事例1:親会社にとって「なくては困る」IT組織への変革 大手企業A社では、グループのITシステムの開発・運用・保守を手がける従来のIT子会社の組織を維持したまま、親会社からのさまざまな経営的要望へ俊敏に対応できる「なくては困る」IT組織への変革を目指すことを決めた。 そこで同社は、変革のテーマとして「グループの経営方針に即した戦略の明確化」「最新テクノロジーの獲得」「社員自らが主体的に活動すること」「顧客理解に基づく新たなサービスの提供」の4つを掲げ、ケイパビリティーの拡大とグループ全体のDXを支えるIT組織としてのバリューアップを目指して、社員のリスキリングを推進している。 ここでは社員のキャリアプランに基づく育成制度も新たに策定され、人材のモチベーション向上と親会社との主体的な協働といった成果が生まれている。 事例2:ERP導入の5カ年計画を機に、IT子会社の担当部門を統合 本社に新たなERPを5カ年計画で導入することを決定した大手企業B社では、これを機にITを経営の重要施策として位置付け、IT子会社の中でERPやIT戦略を担当してきた部門を親会社に吸収合併した。それ以外の部門を外部へ売却し、アウトソーシングの形でサービスを継続している。 こうした形態をとった背景には、ITリソースの選択と集中によるコストおよび効率の改善、またコアとなるチームを親会社に統合することで、業務部門とIT部門とのコミュニケーションの円滑化を図る狙いがあった。同時に、IT子会社から移籍した社員の給与を親会社と同じ水準とすることで、モチベーションの向上にもつなげている。 事例3:「バイモーダルIT」の実践に向けて、本社の情報システム部門自らが変革に着手 この事例は、大手企業グループC社の情報システム部門が自らの変革を目指して、Ridgelinezに支援を要請してきたものだ。同社はこれまで、いわゆるSoR(Systems of Record)を中心に、従来型のシステム開発、運用を手がけてきた。しかし、このままでは親会社の新たなニーズに応えられなくなるという危機感から、SoE(System of Engagement)も使いこなせるスキルの習得と組織体制の整備に着手した。 このように、親会社のニーズに応じてウォーターフォール型開発とアジャイル開発を使い分けながら、SoR領域の「Mode-1」、SoE領域の「Mode-2」の双方のシステムに対応する「バイモーダルIT」の実践を目指す事例は手企業を中心に増え続けている。 今回は、テクノロジーの課題に注目が集まりがちなDXの推進について、IT組織の在り方の観点から考えてみた。本稿でご紹介した事例にもあるように、最近は親会社やIT子会社の別を問わず、高い問題意識を持つ現場からのボトムアップによって変革がスタートするケースも増えている。Ridgelinezは戦略から実行までを支援する総合プロフェッショナルファームとしての独自の知見で、こうした現場の方々のチャレンジを幅広く支援していきたいと考えている。 水谷広巳 Ridgelinez株式会社 Director クラウド、サイバーセキュリティ、ネットワークを中心とした、さまざまなグローバルプロジェクトに従事。技術的なバックグラウンドを活かし、企業のIT戦略の立案、情報システム部門の変革、クラウドネイティブ化、テクノロジーロードマップ策定などのコンサルティングを多数手がける。顧客中心のアプローチと深い技術知識を背景に、実績あるソリューションと新しいテクノロジーを組み合わせ、企業のデジタル化による価値向上を目指す。クラウドベンダー北米本社でのアーキテクトやICTサービス企業でのDirectorなどを経て、2020年より現職。