「余命もの」や「モキュメンタリーホラー」が人気…2024年に「小中高生が読んだ本」の「上位作品」
全国学校図書館協議会「学校読書調査」では毎年、小中高生に「読んだ本」について聞き、上位に入った本を公表している。「学校図書館」2024年11月号に詳細が掲載されているが、これを見る限り、2024年春時点で小中高生がもっとも読んだ本は雨穴『変な家』のようだ。新聞でも「モキュメンタリー(実話ドキュメンタリー風)ホラーがブーム」と報じられ、YouTubeチャンネル「フェイクドキュメンタリーQ」と並んで火付け役のひとつとなった『変な家』が本年実写映画化されて小中高生にも広がった。……だが、小中高生は「モキュメンタリーホラーを好んで読むようになった」とは言えなそうだ。学校読書調査をじっくり見てみよう。 【写真】今の小学生が一か月に読む本の「平均冊数」
こわい話は変わらず人気だが、小中高生の好みは大人とは違う
奇妙な間取りの家を考察する「不動産ミステリー」的な導入から、徐々にオカルト要素を色濃くしていく雨穴『変な家』は、おもしろ記事サイト「オモコロ」とYouTubeチャンネルで展開されて人気を博し、2021年に書籍化、2024年に実写映画化された。 学校読書調査では映画が公開される前から雨穴の2作目『変な絵』ともども中高生人高1気が確認できたが、今年はより人気が爆発した。小6男女、中1男女、中2男子、中3男子、高1男子、高2男子、高3男女でもっとも読まれた本になっている。筆者は今年の夏、最寄りの公立図書館に展示されていた小学生の読書感想画で『変な家』『変な絵』を小学生が題材にしていたのを見て「小学生にも下りてきたんだな」と広がりを実感した。 今年の出版業界はホラーブームに沸いていた。「このミステリーがすごい!」同様の年刊ランキングムック「このホラーがすごい!」が初刊行され、各種雑誌でホラー特集が組まれ、雨穴、背筋、梨、芦花公園といったウェブ発の新鋭ホラー作家たちがフォーカスされた。 筆者も中高の学校司書から「今年は『こわい話ありますか』という問い合わせが多いが、流行っているのか」と尋ねられたくらいで、下の世代にも引きがあるんだなと思っていたのだが、学校読書調査を見ると、報道やホラー小説業界的な盛り上がりとはややズレを感じる結果だ。 小中高生の読んだ本上位にあるホラー、怪談、こわい話を、デスゲームやサバイバルホラー、ホラーミステリーなども含めてなるべく広く解釈して並べてみても、 『絶叫学級』…小4女子、小6女子 『怪談レストラン』…小4女子 『人狼サバイバル』…小4女子、小6男子 『怪談5分間の恐怖』…小5女子、中2男子、中3男子 『本の怪談』…小5女子 『学校の怪談』…小5女子 『ふしぎ駄菓子屋銭天堂』…小4女子、小5男女、小6男女、中2男子 『意味がわかるとこわい話』…小6女子 『3分後にゾッとする話』…小6女子 『恐怖コレクター』…小6女子』 『3分間サバイバル』…小6女子 『屍人荘の殺人』…高2女子 『病棟シリーズ』(知念実希人)…高2女子、高3女子 『近畿地方のある場所について』…高3女子 『レキシントンの幽霊』…高3女子 といった具合で、例年の傾向と大きくは変わっていない。 『変な家』『変な絵』人気はすさまじいが、背筋『近畿地方のある場所について』を除けば「このホラーがすごい!」トップ10入り作品とはかぶりがない。作家単位で見ても今村昌弘(学校読書調査では『屍人荘の殺人』、「このホラ」では『でぃすぺる』)が加わる程度だ。小中高生がよく読んだモキュメンタリーは雨穴、背筋だけである。 したがって筆者の解釈では、『変な家』はモキュメンタリーだから小中高生に読まれたというより、間取りや推理のフローチャートをはじめ非常に図版が多く(この点は『絶叫学級』『銭天堂』などと共通)小説を読み慣れていない読者にも読みやすく、かつ、原始的な感情である恐怖を刺激する作品だったことが勝因であり、メディア展開によってそれがよく知られたから今年特別に読まれたのだと思う。