「余命もの」や「モキュメンタリーホラー」が人気…2024年に「小中高生が読んだ本」の「上位作品」
男子も「余命もの」を読む――『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』『余命10年』
2024年に特徴的だったこととしては2023年暮れに実写映画が公開された汐見夏衛『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』の人気が男子にも広がったことだ。女子高生が戦時中にタイムスリップして特攻隊員と恋に落ちるというウェブ小説をスターツ出版が書籍化した作品だ。 この本は映画になる前から、もっと言えば、映画化のきっかけになったいわゆる「TikTok売れ」する前から学校読書調査では読んだ本上位に入っていた。ただし人気は女子に限られていた。ところが実写映画化の影響でおそらく書店のスターツ出版棚(若者向けのライト文芸棚)を超えて大々的に面陳されたからか、男子も手に取り、実際読んだ。中3~高3男子で上位に入っている。 その余波(?)なのか、高2、高3男子では小坂流加『余命10年』も読まれている。従来、こうした「余命もの」、男女どちらかの死が読む前から予想される悲劇的なロマンスは、女子には人気が高いものの、男子はレーベル的に分断されていることもあってあまり読まれていなかった(「女性向けレーベル」発ではない作品であれば、住野よる『君の膵臓をたべたい』のように男女問わず読まれる作品はあったが)。 ところが『あの花』『余命10年』は女性向け的な装丁であるにもかかわらず、男子にも支持されている。ジェンダーレス化が進んでいるとみるべきか、男子向けのレーベルの勢いの凋落とみるべきか、難しいところだ。 とはいえ余命もの(難病もの)は、1960年代から実話を含めてずっと中高生に支持されてきた。死を通じて自らの生を見つめ直し、進路や人間関係を考えるきっかけとなる作品をこの年代は好んできたのである。
2024年の本屋大賞受賞作品『成瀬は天下を取りにいく』を読んだのは中学生男子
「意外性」つながりで今年の出版界の話題作を取り上げると、本屋大賞受賞作の宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』は十代女子を主人公にした青春小説で今年7月時点で80万部を突破している。本屋大賞の発表は4月、学校読書調査は6月に行われることもあって例年ランクインしやすく、また、一度入ると数年にわたって上位に顔を出す傾向がある。 今年も2018年の『かがみの孤城』』以降の受賞作はいずれも中3~高3女子を中心に読まれている。『成瀬』も当然入るだろうと思われたが、中1と中2男子に入っただけだった。本屋大賞受賞作はローティーンよりハイティーン、男子より女子に支持される傾向があったが『成瀬』は中学生男子に読まれた。 ということは、この作品は筆者の整理で言えば「余命もの」や「自意識+どんでん返し+真情爆発」(頭はいいが人間関係は不得手な主人公が特別な誰かと出会い、クライマックスには驚きの展開があるが、それは秘めた真情に基づいたものだとわかり、お互い本心を吐露し合って泣くパターンの物語)のような「終盤に、それまで言えなかったことを吐き出して共有しあう」ことで支持される類いのものではない。 「子どもが大人に勝つ」パターンとして支持されていると位置づけられる。それも小学生や中学生男子が好むようなものである。ふだん親や教師などから「あれしろ」「これするな」と抑圧を受けている子どもが、物語に登場する傍若無人であったり自由奔放に振る舞ったりしつつ大人よりも活躍するキャラクターに共感し、胸をすく思いをすることが魅力のものだと位置づけられる。 つまり、満たしているニーズやもっとも読まれている年代から考えると『星のカービィ』小説版や宗田理『ぼくら』シリーズと近く、学校図書館ではそれらと並べたほうが読者的にはしっくりくるかもしれない、ということだ。 大人の価値観、評価軸とはまた異なる特徴を持つ小中高生の読書傾向から昨今の話題作を捉えると、作品の捉え方や見え方も変わってくる。
飯田 一史(ライター)