急速に進む「ユーロ安」。裏にくすぶる円高圧力を探る…トランプ新政権で進むドル一極集中
11月5日に行われたアメリカの大統領選の結果、年明けからドナルド・トランプ元大統領が返り咲くことになった。トランプ元大統領は大規模な減税を公約に掲げているため、アメリカの財政が悪化するとの思惑が先行し、金融市場ではアメリカの金利が急上昇した。その結果、世界的なドル高が再燃し、ドル円レートも1ドル=155円目前まで円安が進んだ(図表1)。 【全画像をみる】急速に進む「ユーロ安」。裏にくすぶる円高圧力を探る…トランプ新政権で進むドル一極集中 ところで、仮にカマラ・ハリス候補が勝利したとしても、ドル高トレンドが進んだのではないかと筆者は考えている。民主党から出馬したハリス候補もまた、税額控除や医療費支援などを打ち出していたため、アメリカの財政に負荷をかけるものだったからだ。いずれにせよ内需が刺激されるため、インフレが高止まりし、利下げが進みにくい環境になっただろう。
再び急激に進んだ為替の下落
話を戻すと、9月初めに140円程度まで上昇していたドル円相場は、11月後半までに155円前後まで下落した。つまり10%減価したわけだが、日銀による追加利上げや財務省による為替介入が警戒されていることもあり、下げ止まっている。一方で、米大統領選後の下落は、ドル円相場よりも、ユーロドル相場の方が急激である点に注目したい。 ユーロドル相場は、この間に1ユーロ=1.11ドル台から1.04ドル台に下落した。減価率は8%程度であるため、下落の度合い自体はドル円相場よりも弱い。しかしテクニカルな分析を試みると、米大統領選後のユーロドル相場の下落の「急激さ」が鮮明となる。つまり、25日線との乖離は、ドル円相場よりもユーロドル相場のほうが顕著というわけだ(図表2)。
なぜユーロ安が進むのか。その理由を考える
急速なユーロ安が進んだ理由は主に2つある。 1つが、「欧州経済の不振」だ。欧州連合(EU)の7-9月期の実質GDP(国内総生産)は前期比0.4%増と、3期連続で同じ伸びとなった。日本の7-9月期の実質GDPが4-6月期から減速したことに比べると不調とは言い難いが、欧州の場合、内容がよくない。 具体的には、欧州経済の中核をなすドイツ経済が不振にあえいでいる。ドイツはほぼゼロ成長に陥っており、雇用情勢も今後はさらなる悪化が予想されている。ドイツの不振をその他の国々で支えているかたちだが、それもいつまで続くか分からない。そのため金融市場では、欧州中央銀行(ECB)が利下げを加速させるという思惑が強まっている。 このように、欧州経済の不振という流れがユーロ安のベースにあるわけだが、それを一気に加速させたのが2つ目の理由、つまり「トランプ元大統領の再登板」だ。トランプ元大統領は同盟国であるEUに対して厳しい姿勢で臨む方針を示している。対米関係が経済と政治の両面で悪化するとの観測が高まり、ユーロドル相場を急落させたわけだ。 通貨と物価の番人であるECBも、今のところはユーロ安を容認している。むしろ、不振にあえぐ欧州経済を考えれば、ユーロ安は受け入れざるを得ないというのがECBの偽らざる本音だろう。1ユーロが1ドルと等価になることをパリティというが、こうしたECBの姿勢を受けて、パリティが割れることも十分に視野に入る展開となってきている。