アップル「EV開発から撤退」の意味と、次なる探索 「iPhoneと車との連携強化」は新たな段階に入る
新規参入する市場として有望であるとの判断があったことは間違いないだろう。 ■なぜアップルはEV開発をやめたのか? Bloombergによると、複数あったアップルのEVのプロトタイプの1つは、かつてヒッピー文化で象徴的だったフォルクスワーゲンのバン(Type 2)をイメージした車体だったという。 アップルは、完全な自動運転(レベル5)を実現する電気自動車の製造を目論み、年間10億ドル(約1500億円)を投資してきた。その過程で、テスラやメルセデス・ベンツ、BMWといった自動車メーカーから人材を雇い入れ、160万キロを超える試験走行にも取り組んできたという(ブルームバーグ)。
しかしアップルはEV開発を中止した。その理由は、 1. 利益率の低さ 2. 優位性の欠如 3. 次世代CarPlayという解決策 の3つが考えられる。 まず1つ目の利益率の低さについて。現在のアップルの利益率は、直近の2024年第1四半期(2023年10~12月)で、なんと45.9%を記録し、昨年までのターゲットだった35~38%に比べて大幅に上昇している。 その要因はiPhoneの中でも価格が高いProモデルが好調だったこと、67%の利益率を誇るサービス部門の売上比率が上昇したことが原因だ。
これに対して、EVメーカーの利益率は振るわない。利益を出しているアメリカのメーカーはテスラだけで、利益率は18.2%。リビアンの利益率は-45.8%、ルシッドは-225.2%というのが現状だ。 加えて、アップルには、すでに携帯電話、コンピューター、タブレット、ウェアラブル、サービスといった確固たるビジネス部門があり、クルマだけに集中できる環境ではない。その点で、EV事業をリードする人材が不足していたと言えるかもしれないが、これは異業種参入の難しさだろう。
■アップルはテスラに追いつけなかった 特に重要だったと思われる要因は、アップルらしさを発揮するチャンスがなかったことではないだろうか。 簡単に言うと、アップルが自動車を完全に再発明し、人々の行動変容を起こす未来像が描けなかったということだ。 現在のEVの核となる価値は、バッテリーと充電ネットワーク、制御ソフトウェア、自動運転機能の3つだ。そこに、アップルの強みである情報通信やエンターテインメントはなく、前述の3つにアップルが優位性を発揮できる領域はなかった。