子どもがやさしい子に育つ「親の魔法の言葉」
思いやりの心を育てる
幼い子どもは、自分のことしか考えられません。赤ちゃんやよちよち歩きの幼児は、世界は自分を中心に回っていると思っています。これは、幼児の自然な成長の一過程です。幼児は、成長するにしたがって、この自己中心性を和らげてゆきます。 人を思いやる気持ちを子どもに教える機会は、日常生活のあらゆる場面に訪れます。 先日、わたしは、4歳と8歳ぐらいの男の子を連れたお母さんを、スーパーで見かけました。3人は、キャットフードを買おうとカートに積んでいました。そのとき、一人のお年寄りが財布を落とし、中身が床に散らばってしまったのです。大きいほうの男の子は、すぐにカートから離れ、お年寄りに手を貸しました。弟のほうは、そのままキャットフードの缶をカートに入れていました。そんな弟をお母さんはそっと促しました。さり気なく弟の腕に触れて買物の手を止めさせ、そして、お兄ちゃんとお年寄りのほうへ顔を向けて、その子に気づかせたのです。二人に気づいた弟は、お兄ちゃんを手伝い始めました。このお母さんは、こんなふうにやさしく、さり気なく弟をしむけたのです。 思いやりとやさしさは、遊びをとおして教えることもできます。 4歳のケニーとお母さんは、寝る前に部屋のおもちゃを片づけていました。お母さんはテディベアを布団に入れながら、トントンとやさしく叩いて言いました。 「さあ、テディちゃんは、これでぐっすりオネンネができるわよ」 ケニーもテディベアの毛布を掛けなおしながら言いました。 「テディ、おやすみ」 ケニーは、まるで弟のようにテディベアをかわいがっています。ですから、お母さんは、そんな「弟」に対してやさしく接することをケニーに教えたのです。ケニーは、こんなお母さんのおかげで、遊びながら、やさしい心を学ぶことができました。 子どもに、相手の気持ちを考えさせることも大切です。 7歳のジェニーとマリアは、さっきまでゲームで遊んでいました。ところが、ルールのことで喧嘩になってしまったのです。マリアは急に立ち上がり、帰ってしまいました。ジェニーは、お母さんに話を聞いてもらいたくて、台所へ行きました。 「マリアって、ほんとに変な人なの。負けるのがいやで、帰っちゃったの」 「何かあったの? いつも仲良く遊んでるのに」 ジェニーは、ルールをめぐって喧嘩になったこと、マリアが悪いのだということを話しました。 「そう、そんなことがあったの……」 お母さんは、考えながら言いました。 「でも、そのときマリアはどんな気持ちだったのかしら」 「え? 何が?」 ジェニーは少し驚いたようです。そして、しばらく考え込んでから言いました。 「あたし、マリアに電話する」 ジェニーはマリアと話しました。そして二人とも悪かったということで、仲直りしました。きちんと話し合うことができたのです。二人は、また同じようなことが起こったら、その場できちんと話し合って解決できることでしょう。 このお母さんは、マリアのことをジェニーの大切な友だちだと思っていました。そんなお母さんのおかげで、ジェニーはマリアの気持ちを思いやることができたのです。そして、大切な友情を保つことができたのでした。 子どもは、一人ではなかなか思いやりの重要さを学べません。親が導かなくてはならないのです。思いやりの心は、子ども時代に学ばなければなりません。大人になってからではとても苦労してしまうことでしょう。
ドロシー・ロー・ノルト著、レイチャル・ハリス著、石井千春訳