よく走るボクサーは強い。元世界チャンピョン川島郭志さんに聞く、ボクサーが走る理由
WBCスーパーフライ級元世界チャンピオンで、王座を6度防衛。現役時代は毎朝走っていたという川島郭志さん。現在会長を務める川島ジムの選手は毎日朝夕走る。「ボクサーにとって、ランニングはとても重要」と断言する川島さんに、その理由を聞いた。
教えてくれた人:川島郭志さん
かわしま・ひろし/1970年徳島県生まれ。高校総体で優勝し88年にヨネクラボクシングジム入門。94年WBC世界スーパーフライ級王座獲得。6度防衛。20勝3敗14KO。現川島ボクシングジム会長。
ボクサーはなぜトレーニングで走るのか
夕刻、東京・大田区大岡山の住宅街にある川島ボクシングジムから選手たちが走り出る。冬でもTシャツに短パン姿。肌が熱を帯びピンク色に染まっていく。遠ざかる選手を見送る会長の川島郭志さんが目を細める。 川島ジムの選手は毎日朝夕走る。朝は各々で10kmのラン。夕刻は集まってダッシュ。 「ダッシュは1.5kmを3本。近くにある池上本門寺の96段の石階段を上り下りすることも」 そう話す会長の川島さんは、WBCスーパーフライ級元世界チャンピオンで、王座を6度防衛。現役時代は毎朝走っていた。 「朝6時、世田谷にあった所属ジムの会長宅からスタートしました。コースは、10km、12km、14km。コンディションや試合までのスケジュールを考慮して選びます。ふだんは14km、試合前は10km走っていました」 太陽照りつく夏も走る。凍てつく冬も走る。 「ボクサーにとって、ランニングはとても重要です。まず、フルラウンド脚を使って闘い抜くスタミナが養われます。そして、闘うための強い心も育ちます」 ランニングによってフィジカルもマインドも鍛えられる。 「力が拮抗する相手との試合の終盤、ぎりぎりの局面で勝敗を分けるのは、技術よりも心の強さです。ボクシングは1対1で向き合ってパンチを繰り出すスポーツですが、僕は自分自身との闘いだと思っています」 やってきたことのすべてがリングの上の闘いに表れる。 「限界を感じたとき、もう一度気持ちを奮い立たせてくれるのは、自分を追い込んできた体験です。おのれに勝って初めて相手に勝てる。眠くても、寒くても、毎朝走り続けた自信が勝利につながります。だから、よく走るボクサーは強い。脚が強くて速い選手は強いです」 毎朝走ることにも意味がある。 「夜は楽なんですよ。カラダが起きていて、心拍数が上がっていますから。また1日おきに走ってもスタミナはつくかもしれません。でも、それではだめなんです。心が鍛えられません」 川島さんは引退後もずっと走っているそうだ。 「週に1度か2度、ダッシュをやります。生まれ育った徳島でフルマラソンも走りました。練習は3か月前から1日おきに15km、大会直前は30km走って本番に臨みました。完走して、記録は3時間33分です」
取材・文/神舘和典(初出『Tarzan』No.874・2024年2月22日発売)