安定神話はとっくに崩壊…60代・元国家公務員夫婦〈年金40万円と退職金4,000万円〉も、老後計画が散ったワケ。大事に育てた娘からの「忘恩のひと言」【FPの助言】
安定のイメージが強い公務員。なかでも国家公務員は、年金額や退職金額も高いケースも多く、ひと昔前までは「絶対安泰」とまでいわれていました。しかし現在では、定年後に生活苦となる人も少なくないようで……。本記事では、Aさんの事例とともに、公務員の老後破産について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。 【早見表】勤続年数別・企業規模別「サラリーマンの退職金額」…〈令和3年民間企業の勤務条件制度等調査より〉
共働き公務員で老後も安泰?
Aさん夫婦は学生卒業後に、国家公務員になりました。Aさん夫婦の就職当時は、好景気だったことから、一般的に「安定」「堅い」公務員より、「やりがい」「スキル」を求め、大企業に就職したいと希望する人が多かった時代だったようです。 しかしながら、就職氷河期時代では「安定」「安泰」の公務員が花形となり、子どもたちのなりたい職業の上位にランクインする職業となりました。一般的に他人から羨まれる公務員だったAさん夫婦は景気に左右されず「絶対安泰」「社会的信用」を持って定年まで勤め、老後も安泰と思われますが……。 Aさん夫婦には娘が1人います。国家公務員は転勤も多く、単身赴任するかどうか悩むところですが、Aさん夫婦は、転校が多いことで娘が学校に馴染めないことを心配し、私立学校に入学させました。拠点を東京に置きつつも転勤先との往復を繰り返し、両親の助けを得ながら子育てしました。二重生活であったことから、通常の家庭より生活費や教育費等、子どもにかかる出費がかさんでしまったことは容易に想像できます。 さらに、娘が通う有名私立校は、Aさん夫婦が公務員であることに社会的信用は問題ありませんでしたが、私立校に通う親は富裕層の人も多かったのです。さりげなく有名ブランドの洋服等を揃え、いつしか自分達もブランド品を購入することが当たり前のようになっていました。子どもはオール私立、ブランド品の購入等で、現役時代に貯蓄といっても同じ給与を受け取っている人に比べ、貯蓄はできていません。
想定外が夫婦の老後を脅かす
国家公務員の平均給与は令和6年人事院が実施した調査によると、国家公務員の平均給与月額は40万5,378円(平均年齢42.1歳、平均経験年数20年、行政職俸給表(一)による)です。一方で、民間企業では月額42万1,855円(平均年齢45.1歳、係長、事務関係職種)です。給与収入的には民間企業と大差ないようにみえますが、公務員のメリットとして、安定した収入と社会的信用が大きいようです。 現役時代もさることながら老後の生活設計を考えた場合、Aさん夫婦2人の年金は月40万円、退職金は4,000万円あります(貯蓄は1,000万円ほど)。厚生労働省の令和6年度の年金額改定のプレスリリースでは夫婦の年金は月23万483円からすると、共働きのAさん夫婦の老後は安泰だったはずです。 さらに、公益財団法人生命保険文化センターの調査では、必要な日常生活費は月23万2,000円、ゆとりある生活は月額平均37万9,000円から考えると、年金のみでゆとりある生活できるレベルにある、いわゆる勝ち組夫婦です。そして、Aさん夫婦もそう信じていました。 勝ち組夫婦が老後破産に陥る事例では、現役時代と同様に生活レベルが変えられないことが原因となることはあるあるです。Aさん夫婦も例外ではありません。ブランド品の購入が当たり前になり、生活水準を変えられないために老後破産に陥るケースでした。 さらにAさん夫婦に襲った想定外は、必要以上に老後にも娘にお金がかかったこと。娘の環境をよりよくしようと、ずっと私立学校に通わせ問題なく卒業できましたが、家では1人でいることが多く、自己表現やコミュニケーションが苦手になっていました。大企業に就職するも、馴染めず退職。引きこもってしまいます。親が心配すればするほど、娘は反発することも。「いままで、1人にしておいていまさら口出ししないで欲しい」と言い放たれました。 いままでは、公務員は老後も安泰と思われていました。ですが、Aさん夫婦の現役時代の贅沢品の購入を考えると、年金だけでは心許ないことがわかります。さらに、定職につけず、引きこもってしまった1人娘の面倒を見続けることにより、ゆとりのある老後計画は、潤沢な退職金を持ってしても静かに散ってゆきました。