「どんな依頼も受ける」 生活保護受給者へのエアコン販売、助成利用の“街の電器店”が存在感
生活保護受給世帯で住宅にエアコンのない人に対し、購入・設置への助成制度を設けている自治体がある。近年の猛暑でエアコンが生活必需品になる一方、必ずしも全ての人に行き渡っていないことを受け、自治体が制度化した形だ。ただ、助成制度の活用は手間もかかるため、これらの案件を受けたがらない店が多いのも実情。そうした中、助成の上限額に収まる見積もりなどで柔軟に対応する“街の電器店”が存在感を発揮している。 【関連写真】練馬区の電器店が作成する助成申請の記入例 「基本的にはどんな依頼も受ける。暇で愚痴を言うより、忙しくて愚痴を言えていたほうがいい」。 こう話すのは、東京都練馬区に店を構えるパナソニック系列の電器店であるエニータイムロッコウ(後藤勝社長)の後藤勝彦店長だ。今年すでに7件以上、区の助成金を利用してエアコンを販売・設置した。 練馬区の助成は2023年度から始まった。金額は、エアコン本体購入費6万7000円、設置工事費3万8000円で、初年度の実績は494件にのぼる。 後藤店長は「購入者ができるだけ自費で上乗せして払うことがないよう、合計10万5000円以内で見積もりを出す」という。本体価格を抑えるために旧モデルを仕入れ対応する。 もともと利益が少ないうえ、エアコン設置はその他のコストも生じる。実際、手間がかかることから依頼を受けない電器店も多い。それでも同店が受注し続けているのは、「そこから福祉事務所や区の担当者との接点が生まれるから」(後藤店長)でもある。区の政策が始まった23年夏に福祉事務所から連絡を受けたことをきっかけに、昨年は合計25件受注した。 パナソニック系のエニータイムとみざわ(東京都豊島区、富澤弘治社長)には、6月上旬にケースワーカー経由で生活保護受給者からエアコン設置の依頼があった。 区の担当者から助成額について直接説明を受け、合計10万円以内で見積もりを出したという。「ここでずっと営業していく以上、近隣に困っている人がいたら仕事を受けるべき」と富澤社長。区とのやり取りなどもあり、設置完了は依頼から約1カ月後の7月上旬になった。 この顧客は高齢で生活保護を受けているため、エアコン以外の家電の購入につながらない可能性が高い。それでも受けるのは、「お客さまから良い印象を持ってもらえる仕事を続けていれば、店への信頼になる」(富澤社長)という考えからだ。 豊島区では、24年度から生活保護受給者へのエアコンの購入・設置の助成制度を設けた。単身世帯は本体価格6万7000円、設置費を合わせて8万円、複数人世帯は本体価格8万3750円、設置費を合わせて10万円を補助する。 住宅の状況から設置費がかさむ場合はより多く助成することもある。基本的に購入者は自己負担せず助成金で全額支払うことを想定している。 都内ではほかにも墨田区、葛飾区、足立区なども生活保護受給世帯を対象に含めたエアコンの購入・設置への助成制度を設けている。助成金額は国が設定した基準にのっとり、年々少しずつ引きあがっている。それでも物価上昇の中で上限額に収めることは難しい。
電波新聞社 報道本部