ハチ(米津玄師)さんと2010年の即売会で話した大切な思い出。「ヲタクはいじっていい」時代があった
「ヲタク」への厳しい風当たり
その後も少し会話をすると、もはや浮世離れした人という印象は抱かなくなり、そう思っていたことさえ不思議に思えた。同時に、強く記憶に残っているのは湧き出した勝手なシンパシーだった。同年代の学生であること、ニコニコ動画を通じてボーカロイド音楽に親しんでいること、そして作る曲が他者と関わることへの葛藤や希望を歌うものが多かったことなどが重なってのことだ。 というのも、2010年前後は現代のように「オタク」を受け入れるムードがほとんどなく、少なくとも私が通っていた高校での風当たりは厳しいものだったからだ。 今でこそボーカロイド音楽は10代の中で不動の人気ジャンルとなっている。だが当時は「機械が歌う曲」に傾倒している人間など問答無用で変人扱い。ヲタクではない友達グループとのカラオケで歌おうものなら、揶揄の声で最後まで歌えないほどで、「ヲタクはいじっていい」という空気があったと思う。 2つ年上の才能満ち溢れるこの人も、ひょっとすると同じ空気の中にいるのかもしれない── 。そんな想像をした上での勝手なシンパシーだった。 ちなみに当時、mixiで知り合った30代後半(現在なら50代前半)の人に学校での様子を話すと、「そんなのまだマシだよ。俺の学生時代なんて、アニメを見てるって言っただけで変態扱いだったから」と言われたこともある。だからこそ2024年のいま、「〇〇オタク」「〇〇推し」と会社や学校の自己紹介で話せるような空気には隔世の感がある。 東宝を経て現在STORY.incに所属するプロデューサーの岡村和佳菜さんは、先日のインタビューで「アニメがサブカルチャーからメインカルチャーになったという実感がある」と話していた。「いまの若い子たちは本当にアニメを当たり前に見ているんですよ。グッズだって買うし、カバンとかにつけている。電車内を見ていても、大人を含め、アニメを見ている人が本当に増えました」と。 アニメと歩みを合わせるように、ボーカロイド音楽、そしてオタクという存在もメジャーになったのかもしれない。その過程を、ハチが米津玄師となり、国民的アーティストになっていく様子と重ねるのはやり過ぎだろうか。