「雇用奪う」対「競争力維持」 外国人の技能ビザ、トランプ次期政権に火種
【ワシントン=塩原永久】トランプ次期米大統領の周辺で、有能な外国人労働者の受け入れを続けるかどうかの論争が起きた。一部の支援者が、米国民の雇用が奪われるとして受け入れ停止を主張する一方、次期政権で要職入りする産業界関係者は競争力維持には優れた労働力が不可欠だと訴え、対立した。トランプ氏は28日に公表された米紙へのインタビューで、受け入れ継続を支持すると表明した。 火種となったのは、ITなどの特殊技能を必要とするビザ「H-1B」だ。これまで米西海岸シリコンバレーのハイテク産業などへの人材供給源となってきた。 火をつけたのが、米電気自動車(EV)大手を率いる実業家、マスク氏のX(旧ツイッター)への投稿だ。H-1Bの維持へ「戦争を始める」と27日夜に書き込み、撤廃を求めるグループへの対抗意識をあらわにした。 このところトランプ氏の「MAGA(米国を再び偉大に)」運動に賛同し、移民を厳しく制限すべきだとする一部支援者らが、H-1Bなどの移民制度が「米国民の雇用を破壊する」と撤廃を要求。トランプ第1次政権で側近だったバノン元首席戦略官らも、外国労働者が増えれば「米国労働者の賃金を引き下げる」などと批判していた。 マスク氏は、米国が偉大になったのは「地球上のどこよりも能力主義だからだ」と指摘。同氏とともに新政権で「政府効率化省」を率いる実業家のラマスワミ氏も、同調した。 MAGAの支援者とマスク氏らとの対立が先鋭化する中、トランプ氏は28日公表の米紙ニューヨーク・ポスト(電子版)のインタビューで、「私はH-1Bの信奉者だ」と述べた。自身の経営する施設にもH-1B労働者が多くいるとし、高度な技能を持つ移民ビザへの賛同を表明した。 新政権発足が近づき、トランプ氏が早々に「身内」の火種を消しにかかった格好だ。ただ、11月の大統領選では厳格な移民対策を支持する有権者の民意が浮き彫りになっただけに、このまま沈静化するかは見通せない。 ■H-1Bビザ 科学、技術、工学、数学の分野で高度な専門技術を持つ外国人が、企業や大学に雇われる場合に取得する米国の就労ビザ。取得者の多くが大学院を修了している。滞在可能期間は最長で原則6年。