福島県産木材が世界中からの万博客をお迎え:大阪・関西万博のシンボル・大屋根を支える浪江町「ウッドコア」の挑戦
日本には不可欠な森林循環に貢献
そして朝田さんは「木は適切な時期に伐採して有効利用し、しっかりと植林しなければならない」と力説する。 高齢な木は成長が緩やかになることで二酸化炭素(CO2)吸収量が減ってしまうし、大きく育ち過ぎると製材しにくい。また近年は、鉄筋コンクリートや鉄骨造の建物に比べ、木造建築は工事におけるCO2排出量が少ないことも注目されている。森林は単に放置するよりも、伐採と植樹、育成を繰り返す方が、地球温暖化の防止につながるのだ。
特に日本は、森林面積が国土の3分の2に当たる2500万ヘクタールあり、人工林を中心に森林蓄積も増加が続く。その人工林の50パーセント以上が植林から50年を超え、利用期を迎えている。 森林は温暖化対策に加え、土砂災害や洪水、渇水の防止機能なども持つので、適切な循環が国土の保全にもつながる。「木の伐採=自然破壊」と短絡的に考えられることもあるが、朝田さんは「日本、そして福島では、木を適切に有効利用することが不可欠。ウッドコアは高い加工技術で、地球温暖化対策にも貢献していく」と胸を張る。
木材で浪江町に活気を取り戻す
大屋根の資材は3月末で出荷を終えたが、別の万博関連施設で使用する集成材などの製造に追われ、従業員は忙しそうに働いていた。 朝田さんは「万博の次は、町の復興の役に立ちたい。自分たちができることは、林業を盛り上げて森林循環させ、少しでも雇用を生むこと。徐々に町民は増えているけど、単身の働き手が多く、あまり子どもを見かけないのが寂しい。夕方になると子どもが遊んでいる風景が日常になれば」と願う。自身も家族は都内に残したままだ。震災時に小学校の卒業式が目前だった娘さんは、避難先での生活が浪江町で暮らした時間を超え、すっかり東京人だという。 町は2024年秋から、浪江駅周辺の整備事業に着手。木材をふんだんに使用したデザイン案が発表されており、スーパーや飲食店が入る商業施設や交流空間のほか、大規模な公営・民間集合住宅も建造する。子どもたちが遊ぶ風景も、少しずつ戻ってきそうだ。 そして、ベンチや案内板といった街路設備など、特に人々が接する機会の多い場所には、浪江産集成材や福島県産木材を活用する予定。まだ正式受注には至っていないものの、ウッドコアの活躍が期待される。 「町が元通りになることも、震災前の全住民が戻ることもないが、震災前には考えられないほど、どんどん新しいものが入ってきている。だからこそ、海外から見ても『この町すごいな』って思われ、復興のモデルケースになるような地域づくりをしてほしい」 駅前の再開発は2026年度末の完工を目指す。その後は、浪江駅で福島県産木材が、国内外からの訪問者を迎えることになる。 撮影=土師野 幸徳(ニッポンドットコム編集部)
【Profile】
土師野 幸徳(ニッポンドットコム) HASHINO Yukinori 出版社勤務を経て、現在はニッポンドットコム編集部チーフエディター。主な担当は「旅と暮らし」。「レゲエ界に革命を起こしたリズム“スレンテン”は日本人女性が生み出した:カシオ開発者・奥田広子さん」で、International Music Journalism Award 2022(ドイツ・ハンブルグ開催)の英語記事部門において最優秀賞を獲得。