私、「待機」やめました(2)保育園を作る
子育て経験を社会に還元
起業の模索をする中、心にあったのは「子育て」というテーマだった。自分は4人の父になるのだ。さらに、加奈子さんが休日に仕事で外出する機会も多くなり、家で3人の子どもと一緒に過ごす育児経験を繰り返して、昭博さんの育児に関する考えも激変していた。「奥さんがいない状況で子どもと過ごしてみないと男は気づかないんですよ。育児は大変です。会社では、言葉は通じるし、秩序もあるし、予想外のことは起きないし、会社の仕事は本当にラクだ。子育ては本当に大変だと気づいた。」 自分たちが実際に直面した課題がある。企業側の意識の問題点も見えてきた。「イクメン」という言葉が出始めたときだった。自分たちの「困った」経験を生かし社会に還元できるような事業を興そう。イクメンプロデュース、ベビーシッターサービスなどいろいろと考えたが、落ち着いたのが「保育園を作る」ということだった。保育園探しに奔走し、複数の園に通園したり転園したりしてきたことから、「私たち自身、育児の分野でさんざん苦労したんだから、利用者のニーズもわかるし、できるよ」という妻の加奈子さんの言葉も後押しとなった。加奈子さんの社会保険労務士事務所と併設する形で、2人で開業することを決めた。
認可外で親の気持ちに寄り添うスタイルを確立
そうして作り上げたのが「育みの家 フェアリーランド」(横浜市都筑区)。「親の気持ちに寄り添いたい」という思いから、認可外保育施設として開業。認可保育園は、就業が必須条件になるが、フェアリーランドは「どんな理由でも利用できる」保育園にした。加奈子さん自身、勉強のために学校に通っていたときや、開業準備中に出産したときなど、自分の子どもたちの保育園の預け先に苦労したためだ。 これから仕事をしよう、仕事をするという人はもちろん、フリーランスなどフレキシブルな勤務体系の人、リフレッシュや兄弟児の育児のためなどにも利用できる。いつからでも入園でき、週に1回、1日3時間から月極利用が可能だ。毎日の親たちの負担を軽減したいと、おむつやミルクは園で用意、衣服も一週間分を園で預かり、洗濯しロッカーに収納するサービスも開始。利用者は、降園時に使用済みおむつの持ち帰りや汚れた洗濯物などを受け取ることもない。こうしたユーザー(親)目線でのニーズに加えて、現場の保育士から「子ども」や「働く保育士」の視点でのアドバイスを受けながら、親も子どもも保育士も、そして企業もともに成長していく意識を持つ園のスタイルを確立していった。 また、出産育児などで現場を離れているいわゆる「潜在保育士」に復帰してもらうため、保育士の子連れ出勤も可能にした。いま働いているのはほとんどがパートタイム、全員が子育て中の保育士だ。パートとはいえ、菊地さんたちの開園の理念を理解し、子育てしながら働ける場所としての環境を自分たちで守る意識が芽生え、助け合い・補い合いの精神で、日々の業務に当たっている。お互いに自分の子どもがおり、急な発熱などで仕事を休まなくてはならない状況になるのはみんな一緒。預かる園児の人数を見て、勤務と休みのバランスをチーム内でマネジメントするスタイルに進化した。 幼稚園や小学校の子どもの放課後預かりも受け入れているため、夕方になるとにぎやかになる。幼稚園の園バスが目の前に停車するため、幼稚園の子どもたちも幼稚園の前後の時間、フェアリーランドで過ごす。小学生2人と幼稚園児2人、保育園児1人という菊地さんの子どもたちが、夫妻の終業までの時間をここで過ごし、仕事が終われば全員一緒にここから帰宅する。