顧客は海外の王族から世界的スポーツ選手まで…敏腕ボディーガードが明かす「これまでの最大の敵」
ボディーガードは要警護者を危険から遠ざける仕事
犯罪の少ない日本ではあまり聞き慣れないが、要人警護(ボディーガード)という職業がある。中でもイギリスに本部を置く国際ボディーガード協会(AICPO)は要人警護のプロ組織だ。この国際ボディーガード協会の副長官で日本支部代表でもある小山内秀友氏は英国のボディーガードの国家資格をもち、米国、イスラエル、EU諸国で訓練を積んだプロのボディーガードだ。今はおもに日本で要人警護専門の警備会社を経営している。海外政府要人、海外王族ロイヤルファミリーから、海外アーティスト、有名スポーツ選手、さらには有名グローバル企業要人、宗教指導者など警備経験は多岐にわたる。 選挙応援中に散弾銃で銃撃 安倍晋三元総理「衝撃の流血写真」 「日本での要人警護は警察のSPが行う、と考えられる方が多いかもしれませんが、SPが警備するのは『警察庁長官が指定した人』と決められています。ですから、海外の国賓クラスのVIPでも、プライベートで遊びに来る場合などは公務ではないため、たとえVIPであっても警察庁長官が警備対象には指定せず、民間の警備会社に依頼の声がかかります。つまり、警備対象者の数は民間の警備会社のほうがはるかに多いんです」 この民間のボディーガードへの依頼には2パターンある。 ① 要人を招いた企業やイベント会社、ホテル等が依頼する場合 ② 要人本人やその関係者が依頼する場合 法律上はボディーガードも「民間警備会社」のカテゴリーに入る。日本の警備業は、コンサート会場等の場所の警備や雑踏警備、現金輸送、交通誘導、施設警備等の警備が主だが、それらと並んで「身辺警備」という警備業務があり、これがボディーガードに任される役割だ。日本では民間警備会社が銃を持つことは許可されていない。銃を持たずに警備ができるのだろうか。 「警護中に実際に銃を抜く場面は基本的にはありません。要人警護の世界では銃を抜いた時点で警護に失敗したことを意味するからです。危機を未然にしっかり防ぐことに失敗したから銃を抜かざるを得なかったということです。アメリカの大統領を守るシークレットサービスにおいても、すぐ近くの警護員だけが拳銃を持っていますが、実際に抜く場面はほとんどありません。1981年3月にレーガン大統領の暗殺未遂事件が発生しましたが、この時、シークレットサービスの隊員たちは拳銃やサブマシンガンをパッと出していますが、発砲することはありませんでした」 要人警護業務では、警備対象者が一人だけとは限らない。世界トップクラスの著名なスポーツチームの警備を担当し、複数の警備対象者を同時に守ることもある。 「僕らは警備計画を立てる前に、まず大前提としてどういう人を守るのか、何を守るのかということを明確にします。その後、その警備対象者に起こりうる危険にはどのようなものがあるのかを検証します。要は、何を守るのかを明確にした後、何から守るべきなのかを考え、その後、どのように守るのかという警備計画を立てるのです。日本滞在期間中にそれぞれの警備対象者に起こりうる危険はどのようなものがあるのかを考えていくんです。このため、警護準備には十分な時間をかけます。例えば、ある有名なトップクラスのサッカー選手の警護をした時は、日本滞在は1週間ぐらいでしたが、警護準備のために僕らが費やした時間は約3ヵ月でした」 選手の中には人通りの多い原宿等でショッピングや観光に行きたがる人もいる。そのような雑踏に警備対象者が行く場合はどのような対策をしているのか。その場合もリスク評価を事前に綿密に行うのだという。 「警備対象者が人通りの多い場所に行くような場合においても、全て脅威評価に基づいて行動します。脅威評価で一番僕らが重視するのが、現実的に起こり得る危険の可能性です。 例えば有名なサッカー選手が原宿の竹下通りに買い物に行く、と言った時は大騒ぎになりますよね。有名な人に出くわして大騒ぎするのは、たまたまそこに居合わせた人たちで、これは『脅威』というよりは『好意』であることが多い。この『好意』とは別に、その選手を襲おうとする人物が実際にその場に居合わせる可能性がどのくらいあるのかを検証したり、そのような場所で刃物を振り回すような人がいる可能性が現実的にどのくらいあるのかなどを分析します」