仕事に「やりがい」を求める人が自分も周囲も不幸にするワケ
「やりたいことを仕事にする」ことが幸せであるという風潮は強い。しかし、それが全ての人にとっての幸せであるとはいえないだろう。やりたいことをやるよりも大事なこととは。※本稿は、石倉秀明『CAREER FIT 仕事のモヤモヤが晴れる適職の思考法』(宝島社)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 「好きなことで生きていく」は結果論 よくキャリアについても、「やりたいことを仕事にする」とか、「やりたいことをやったほうがいい」なんて言われることもあります。 しかし、本当にやりたいことをやってうまくいっている人なんて、ほんの一握りなのではないでしょうか。 にもかかわらず、そうした人の声はやたらに大きく、逆に失敗した人の話はあまり出てきません。 やりたいことをやってうまくいかなかった人は、もっと世の中に多いはずなのです。 「小学生の将来なりたい職業ランキング」では、YouTuberが4年連続1位だそうですが、実際にYouTuberで稼げている人はほとんどいないわけです。 現実を見れば、収益が発生する登録者1000人以上を達成しているYouTuberは全体の15%ほど、さらにその収益で食べていける人は上位数%いるか、いないかの話でしょう。ですから「やりたいことをやって、うまくいった」というのは、結果論でしかありません。
そういう人たちの声ばかりが大きく聞こえるというのは、結局、「生存者バイアス」がかかっているのだと思います。 このように結果的にうまくいった人のキャリアが、他の人のケースに当てはまるかというと、そうではないでしょう。これもまたキャリアに関するその他の言説と同じで、「やりたいことをやる」といっても具体的にどうすればよいのか、内実はあいまいなまま、聞こえのよいシンプルなメッセージばかりが、社会に流布してしまっている、と言えるでしょう。 また、「やりたいことをやったほうがいい」という言葉の背景には、仕事に「やりがい」や「生きがい」を求めるような風潮からのバイアスもあるのだろうと思います。 ● 仕事は生計を立てるのが第一義 仕事に「やりがい」や「生きがい」を求めるなど、仕事を通じて自己実現を叶えようとする人は、自分がやる仕事は「天職」でなければならないという強迫観念にとらわれているのではないかと思います。 そこには仕事に対する「幻想」があり、これもまた、「やりたいことをやったほうがいい」とか、「好きなことを仕事にしたほうがいい」という語りなどと同じように、ある種の成功者バイアスであり、「呪いの言葉」ではないでしょうか。 しかし、本当に仕事だけが、自己実現の道なのでしょうか。なぜ、仕事だけを生きがいと考えなければならないのでしょうか。 逆に、そこまで「やりたいこと」も「好きなこと」もない人を、追い詰める結果にしかなっていないのではないかと思います。そうであるならば、無理にやりたいことや好きなことを仕事に合致させる必要はないでしょう。 だから、もっと自分の気持ちに素直になることのほうが、とても大事だと思います。 「年収を上げたい」というのも、非常に素直な欲求だと思います。仕事に変な幻想を持たずに、「生活費を稼ぐための手段」くらいに考えるのも全然悪いことではありません。 むしろ仕事をする理由としては、当然のことではないでしょうか。それを変に「やりがい」とか「生きがい」という言葉でごまかさないほうがいいでしょう。