日本ミステリー文学大賞やハヤカワSFコンテスト、日経小説大賞など9作品を紹介(レビュー)
日本の警察小説をリードしてきたベテラン作家の最新作から、AIを利用した怪異探索ロボットという新機軸を持ち込んだホラー新人作家までの9作品を紹介。 *** 今年の三月二十二日、第二十七回光文三賞(日本ミステリー文学大賞、日本ミステリー文学大賞新人賞、鶴屋南北戯曲賞)の授賞式が、帝国ホテルで行われた。ちなみに日本ミステリー文学大賞は、「わが国のミステリー文学の発展に著しく寄与した作家及び評論家」が対象。今回の受賞者は、今野敏であった。選考委員を代表した佐々木譲の講評によれば、日本に警察小説を根づかせた創作活動が高く評価されたようである。当然というべきだろう。なにしろ作者は、長年にわたり警察小説を書き続けてきたのだから。 そんな作者の警察小説の最新刊が、『夏空 東京湾臨海署安積班』(角川春樹事務所)である。このシリーズは長篇と短篇集を交互に出版しているが、本書は十作を収録した短篇集だ。冒頭の「目線」は、隅田川で遺体が発見され、安積たちが捜査を始める。それと並行して、安積班の須田と水野が揉めた、須田が課長に叱られたという二つの噂が流れる。安積が二人に話を聞くと、課長が水野にかけた言葉がパワハラ・セクハラに当たるかどうか、解釈の違いで揉めたとのこと。事件の現場に出たときの体験をもとに、安積は二人にアドバイスを与える。 以下、「会食」は署長の交友関係の問題、「志望」は安積班のメンバー入れ替えの打診と、刑事たち自身の問題が大きく扱われている。組織ならではの問題はどこにでもあるが、悪質クレーマーに警官が手を出した可能性が強まり、安積たちが奔走する「夏雲」などを読むと、制約の多い仕事にため息をつきたくなる。殺人事件を扱った「世代」のような作品もあるが、現代の最前線にいる刑事の姿が、本書の一番の見どころであろう。そして作者には、「安積班」シリーズや「隠蔽捜査」シリーズで、これからも日本の警察小説を牽引してくれることを期待しているのである。