実は“大事件” スズキ・スペーシアに「ステレオカメラ」搭載
使命を終えた? 赤外線レーダー
例えばトヨタでは比較的安価な「Toyota Safety Sense C(赤外線レーザーセンサー+モノラルカメラ)」と上級の「Toyota Safety Sense P(ミリ波レーダー+モノラルカメラ)」を用意している。モノラルカメラと組み合わされるセンサーが赤外線かミリ波レーダーかによってランクを変えており、人を認識するにはミリ波のToyota Safety Sense Pが必要と説明されている。 ホンダの「Honda SENSING」の場合もっと明快でホームページの表の中で「赤外線レーザーでできることは全てミリ波レーダーででき、さらにミリ波レーダーでないとできないことがある」とミリ波レーダーの優位性がはっきりと示されている。 つまりここ1年で、3つのセンサーの評価は「人以外にほぼオールラウンドなミリ波レーダー」と「歩行者(人)の感知に優れたカメラ」。そして「価格以外には優位性を持たない赤外線レーザー」が定説になりつつあると言える。 トヨタはおそらく価格に着目して赤外線レーザーとミリ波レーダーでクラスを分けているのだが、どうもステレオカメラの性能が上がり、価格も下がりつつある現在、ベースをステレオカメラに統一して、上位システムでミリ波レーダーを追加することになりそうな空気があるのだ。そうなるとシステムはだいぶスッキリする。赤外線レーザーはその使命を終えたのかもしれない。 実際、国内でこのぶつからないブレーキを広める原動力になったスバルの「EyeSight」ではステレオカメラのみでセンシングを行っており、各種の性能評価でも好成績を納めている。カメラ式センサーはCCDカメラを中核としたシステムであり、赤外線レーザーほどではないまでも、ミリ波レーダーと比べてコストはぐっと低い。
「人を認識できるか」の次元へ
今回、スペーシアにカメラ式センサーが搭載された意味は大きい。一応念のためにスズキに確認してみたところ、ステレオカメラセンサーと赤外線レーザーセンサーの併用ではなく、ステレオカメラセンサー単独装備ということだ。 特にこのシステムでは、カメラを2台搭載するステレオカメラ方式になっている。ステレオの利点は、「視差」を利用して障害物までの距離を画像計算で弾き出すことができる点にある。またこれはステレオに限らないが、画像解析をすれば対象が人であるかクルマであるか、などの種別分析ができる。 軽自動車という価格支配の大きい商品でこのシステムが導入されたことは大きい。軽自動車も「ぶつからないブレーキを装備しているかしていないかではなく、少なくとも人を認識できるシステムが装備されているか」に争点が進んだことになる。 軽自動車マーケットでの熾烈な争いを考えれば、当然、他社の競合モデルも追従するだろうし、Bセグメントのクルマは軽に安全装備で負けるわけにはいかない。つまりスペーシアのステレオカメラセンサー搭載は、日本のクルマ全体のぶつからないブレーキシステムのボトムラインの引き上げに繋がるわけだ。 もう一点重要な点がある。赤外線レーザーはぶつからないブレーキ以外に発展する可能性がないが、カメラは他のシステムのセンサーとして機能させることができる。例えば、今回スペーシアには「車線逸脱警報」「ふらつき警報」「先行車発進お知らせ機能」などがメーカーオプションで選べるようになった。 これらは「どうせカメラがあるならば」ということで追加できた制御だ。つまりカメラの装着はクルマに「目」が付いたということなのである。