悲劇を繰り返すな 1970年大阪万博、成功の陰にあった多くの犠牲 from 大阪社会部
《まさに「日本人の勤勉さ」》 2025年大阪・関西万博の準備状況を取材する後輩の記者から渡された、1970年大阪万博の公式記録に目を通した際、会場建設にあたった作業員たちの働きぶりを評するこの一文にぞっとした。 【写真】ガス爆発が起きた万博会場で建設中のトイレ。コンクリートの床などが破損した 公式記録によると、67年に始まった建設工事では、70年の開幕までに延べ約272万人、ピーク時で1日当たり9千人以上が従事した。一方、期間中には318件の労災が起き、17人が落命。「勤勉さ」という言葉と結び付けるにはあまりにも重い数字だ。 戦後からの復興を経て経済成長を続けてきた当時の日本は、労働衛生の観念が希薄だったのだろう。建設が遅れる中、昼夜を問わぬ突貫工事で開幕までに会場が完成した大阪万博は、当時の万博史上最高となる来場者6421万人を記録。華やかな成功の陰には多くの犠牲があった。 大阪市此花区の人工島「夢洲」で建設が進む今回の万博では今年3月、工事中のトイレで爆発事故が発生。土中に埋め立てられた廃棄物から発生して地下空間にたまったガスに溶接作業の火花が引火し、コンクリート製の床などを破損したが、けが人はなかった。 万博を運営する日本国際博覧会協会の幹部は「けが人や第三者への被害がなくてよかった」と安堵(あんど)するが、土地の特性を考えれば予測できた事故でもある。今回の万博も建設の遅れが指摘されるが、大阪万博での悲劇を繰り返してはならない。(山本考志)