[懐かし名車旧車] ニッサン初代シルビア(CSP311)「女神にふさわしい美麗ボディ」ハンドメイドから生まれた奇跡のクーペ
「コンセプトカーがそのまま市販化されたような」という表現を見かけるが、かつて、真にデザイナーの構想がそのまま1/1に具現化したような、夢のクルマが実際した。ハンドメイドでその美しいボディを仕上げられ、最上級サルーンを超える価格で販売された、宝石のような輝きを放つ名車。初代シルビアの生き様を振り返ってみたい。 →【画像】[懐かし名車旧車] ニッサン初代シルビア(CSP311)
コンセプトカーのイノセントなデザインが、そのまま市販車として生み落された
この美しいクルマが初めてその姿を現したのは、1964年の第11回東京モーターショーの会場だった。出展車の名称は「ダットサン クーペ1500」。翌1965年に、ギリシャ神話に登場する美しい女神に由来した名称を授かって発売された初代「シルビア(CSP311型)」は、流麗で優美な国産車離れしたスタイリングのパーソナルクーペとして、市販車の中にあっても圧倒的な存在感を放った。 じつはこのシルビア、発売の直前まで、広く大衆車に用いられていたダットサンブランドのネーミングを冠される計画だったが、最終的に、当時は高級モデルのみに限定採用されていた日産ブランドに変更されたという。それもやはりこのスタイリングがあればこそ、といえよう。 この外観に漲る生々しい力感や優美さは、製造ラインの機械によるプレスでは到底出すことのできないもので、ボディ周囲に継ぎ目が見当たらないことからもわかるように、これらはハンドメイド、すなわち1台ずつの手作業による叩き出しで仕上げられている、まさに工芸品さながらの車体なのである。 いっぽうこの初代シルビアに搭載されたエンジンは、ショーモデルが積んでいた1.5LのG 型エンジンのボアを広げてショートストローク化したR型1.6L直4OHV。このエンジンは吸排気系形状の見直しや高圧縮比化、さらには強化型コンロッドメタルの採用などにより、90psの最高出力と13.5kg-mの最大トルクを発生。初採用されたポルシェタイプボルクリングサーボフルシンクロの4速トランスミッションと組み合わせられることにより、100マイル (165km/h)の最高速度と17 .9秒の0→400m加速という、当時の水準としては特筆ものの快足ぶりを誇っていた。 また、シャーシに視点を移すと、X型メンバーのラダーフレームにフロントがダブルウィッシュボーン、リヤがリーフリジッドというサスペンション構造。そしてじつは、これらの基本メカニズムは、シルビア登場の1ヶ月後にデビューしたフェアレディ1600とまったく共通、つまりこの両者は姉妹車の関係にあったのだ。 ◆エッジの利いたシャープなデザインの中に流麗な曲面を多用することで、エレガントな雰囲気を醸し出す初代シルビア。 ◆製造ラインのプレスでは到底出すことのできない優美さは、ハンドメイドならではの力感がある。 ◆ボディ周囲に継ぎ目が見当たらないことからもわかるように、その造りはまさに芸術品。 ◆ヘッドライトは4灯式を採用。トランクルームの開口面積も十分に取られた実用的なクーペだった。 ◆G型エンジンのボアを広げてショートストローク化するとともに吸排気マニホールドの形状変更、9.0の高圧縮比とSUツインキャブ、さらにはF770コンロッドメタルの採用などにより高性能化が図られた1.6LのR型エンジン。 ◆当時のフラッグシップサルーン以上の高級クーペらしく、外観にたがわず上品でスタイリッシュなインテリア。スピードメーターは180km/hまで刻まれ、タコメーターとの間にはアナログ時計が配されている。 ◆高級クーペとして演出するため、シート表皮は本革が採用されている。 ◆2人乗りのクーペなのでリヤに設置されたベンチシート風に見えるスペースは乗員用ではなく物置きに利用する。