「安いイメージに変化も」独禁法違反を疑われたアマゾンのどこが問題だったのか…プラットフォームビジネスの到達点と今後の展望【弁護士解説】
なぜアマゾンがリアル店舗より安いのか?
ーー公取委の狙いとしては、今回の一連の調査によって、ネットワーク効果がもたらす結果的な独占に歯止めを利かせることで、これ以上の影響を最小限に抑えようということでしょうか。 江﨑弁護士: 公取委の考え方は理解できます。近年、力のあるデジタルプラットフォームに小売りが一極集中しているという事実はありますし、デジタルプラットフォームについては、仕組みが見えにくいという問題もあります。 「なんで自分で行って自分で物を運んでくる小売店よりも自宅までの運び賃込みのアマゾンの方が安いのか」という素朴な疑問を感じたことはありませんか? そのからくりが今回明らかになったという意味では、もっと関心が集まってもいいトピックなのかもしれません。 ただ、独占そのものについてメスを入れようというよりも、現段階ではこういった独占がもたらす弊害の方に目を向けていると思います。 ーー消費者が「安い」と飛びついていたアマゾンの裏側では、アマゾンの圧力により各小売業者が安値を付けざるを得なかった事情があったということですね。 江﨑弁護士: 今回のニュースからすれば、アマゾンが各小売業者に安売り圧力をかけてきたことが問題視されているようです。消費者から見れば安く買えるのでありがたいと思える面も当然あるでしょうが、小売事業者が「身銭を切る」レベルにまでなるのはwin-winではありませんし、健全でもありません。 改めて法文の内容を見ると、このような懸念が今回、特定DPF透明化法がまさに規制しようとしていた事案のように見えます。
「アマゾン=安い」に変化も?
ーー今回の法令や公取委の動き方によって、今後どのように市場が変化していくでしょうか。 江﨑弁護士: 私はアナリストではないので、いくつかのありうる可能性を提示するにとどめておきます。 まずアマゾンについては、これ一つでアマゾンの優位性がすぐに失われるというものではないと思います。何よりもアマゾンが今までプラットフォームとして築いてきたネームの優位性は揺るぎません。 ただ、「アマゾン=安い」という部分が少しずつ変わっていくのかもしれません。その「安さ」を売りにするという側面に拠らない努力がアマゾン側にも求められると思います。 ーーアマゾンで安く買い物ができなくなるとしたら、買う側にとってはやはり残念です。 江﨑弁護士: 消費者の観点から見ると、短期的にはアマゾンでは安く買えなくなる可能性があるということなので、不利益に見えるでしょう。 ただ、長期的に見ると、やはり小売業者の側に負担をかけすぎているということであれば、そういった業者が潰れていったり、イノベーションを削ぐことになってしまいますので、最後は程度の問題です。 私は、その基準は「win-win」が理想で、「win-lose」となる市場は健全ではないというところに求められると思っています。 ーーからくりを知ると、出品者側にwinの余地があるようには見えませんね。市場全体、巨大IT企業への影響はどうでしょうか。 江﨑弁護士: 少し広い観点で見ると、いま、米国でGoogle分割案が取りざたされたり、EUで前述のP2B規則が制定されたり、巨大IT企業に対する風当たりは強くなってきています。 改めて法文の内容を見ると、このような懸念が今回、特定DPF透明化法がまさに規制しようとしていた事案のように見えます。 ただ、法律という観点で見ると、これらの巨大IT企業を直接弱体化させるような規制については正当性を欠くところですし、今回のように当局も独占的な地位がもたらす「弊害」に着目する形での規制が続くでしょう。そのような規制自体によって、市場での各業者の地位が変わってしまうような効果はないと思います。 市場の変化はやはり次のイノベーションが発生した時に起きると思います。 またアマゾンも、一方的に規制当局に従うわけではないということを申し上げておきます。 アマゾンやGoogleは公共政策担当者を各国においてロビイング活動をしています。興味のある方は、アマゾンの政策担当者だった渡辺弘美氏が書いた「テックラッシュ戦記」という本を読んでいただきたいですが、ここからアマゾンがどういう反撃を見せるのか。個人的にはその動向にとても興味のあるところです。
弁護士JP編集部