「下半身がなくてもくじけず、できること探し続けた」世界で5例しかない下半身切断手術受けた徳島の男性、仕事や車の運転楽しむ
労災事故に遭い、世界で5例しかない下半身切断手術を受けた阿波市の下川正さん(仮名、50代)が、リハビリを続けながら日常生活を送っている。骨盤骨折や直腸損傷などで重体となり、助かる確率はわずか7%ほどと言われたが、県立中央病院救急外科・外傷センター長の大村健史医師(48)による手術で一命を取り留めた。「下半身がなくてもくじけず、自分にできることを探し続けた」と振り返る下川さんは、車の運転を楽しむなど充実した毎日を過ごしている。 徳島のダウン症男性、父と2人乗り自転車で日本縦断2900キロの旅完走!! 「諦めず頑張れた。多くの人を元気づけられたらうれしい」 下川さんは県内の工場で働いていた2018年夏ごろ、大型機械に下半身を挟まれ、骨盤や大腿(だいたい)骨などを粉砕する事故に遭った。すぐにドクターヘリで中央病院に運ばれたが、手術中に一時心肺停止状態になったり、体内で細菌が増殖して臓器不全を引き起こす敗血症になったりした。 壊死(えし)した骨盤の筋肉が敗血症の原因となっていたことから、大村医師は自然治癒の見込みは薄いと判断。下川さんに下半身を切断する手術を提案した。砕けた骨盤を取り除いた上で腹部の下を皮膚で包み込むという手術で、約12時間に及んだ。 大量出血の危険性がある難しい手術だったが、大村医師は「下川さんに体力があり、入念な準備の時間が確保できたのが良かった」と振り返る。世界で同じ手術を受けた5人のうち、術後6年たって生存しているのは下川さんだけ。 普段は上半身を守るために腹部の下にクッションが付いた装具を着けて日常生活を送っている。外出する際は車椅子で行動し、家の中では両腕の力で上半身を持ち上げたりはったりして動いている。 「下半身を失った直後は『これからどうやって生きればいいのか』と絶望していた」と下川さん。それでも「妻や子どもらに迷惑をかけたくない」との思いもあって、元の自立した生活に戻れるよう努力を重ねた。 リハビリや訓練を繰り返し、昨年には手だけで操作できる車を運転できるようになった。最近は障害者就労継続支援事業所にも通い始め、収入も得ている。 手術を担当した大村医師とは、年に一度は互いの家族同士で食事をするほどの仲になった。下川さんは「大村先生は命の恩人。これからも一生懸命生き続けたい」。大村医師は「もし下半身を切断していなかったら、亡くなっていたかもしれない。あの時、思い切った決断ができて良かった」と話した。