眠らないと人は死ぬのか…休み明けで憂鬱な人こそ知っておきたい「徹夜を続けた若者の末路」
日本の平均睡眠時間は最短
〈経済協力開発機構(OECD)が2021年に公開した、各国の平均睡眠時間の調査結果によると、33ヵ国のうち、日本の平均睡眠時間は最短だった(7時間22分)。 【写真】睡眠の常識を覆す、「脳がなくても眠る」という衝撃の事実…! 日本では、例えば都心に職場がある人が、郊外に住まいをもっていて、長い時間をかけて通勤している場合も多い。睡眠に費やせる時間は、必然的に短くなりがちだ。日本のビジネスパーソンは、通勤電車で不足した睡眠を補っているのかもしれない。言い換えれば、人間はどんなに忙しくても、ちょっとした隙間時間で眠ろうとする。 そういえば私は幼い頃、あまりに当たり前なことに疑問を抱いていたのを思い出した。眠るのが嫌いだった私は、「睡眠は本当に必要なのか」と疑問に思っていた。夜になるといつも考えていたことがある。もしこのまま眠らずに起き続けたらどうなるのだろう──。〉(『睡眠の起源』より) 働きすぎの日本人は、「寝不足」という問題に直面している。 そもそも睡眠のしくみとはなんだろうか。私たちはなぜ眠り、起きるのか。「脳を休めるために眠る」のは本当なのか。 「脳をもたない生物ヒドラも眠る」という新発見で世界を驚かせた気鋭の研究者がはなつ極上のサイエンスミステリー『睡眠の起源』では、自身の経験と睡眠の生物学史を交えながら「睡眠と意識の謎」に迫っている。
人が眠らなかったらどうなるのか
寝不足の人のなかには、そもそもなぜ眠らないといけないのだろうと考えたことがある人もいるかもしれない。 かつて、「人が眠らなかったらどうなるのか」を検証する大胆な実験をした高校生がいた。 その結果とは──。 〈人が眠らなかったらどうなるのか──ランディは、断眠の実験を思いつき、自らの身をもって検証しようとした。 1963年12月28日、ランディはクリスマス休暇を使って“挑戦”を始めた。実験には協力者がいて、彼が眠らないように常に話しかけたりしていたという。眠らずに起き続けた彼は、どのような経過を辿ったのか? 徹夜2日目、彼は目の焦点を合わせることが難しくなって、テレビを見なくなった。3日目になると情緒の変化が激しくなり、吐き気を催した。徹夜4日目になっても、彼は眠気に抗い、耐え続けた。幻想や妄想があらわれ、道路標識が人間であると感じたり、自らが偉大なフットボール選手だと誇示したりしたという。 7日目あたりになると、言葉が不明瞭になって、まとまった話をすることができなくなっていた。もう中断してもよさそうなものだが、ランディはそのまま耐え続け、なんと年が明けた1964年1月8日までの11日間、時間にして264時間の断眠記録を達成したのである。当時としては、最長の断眠記録だった。 狙い通り、彼の挑戦は、アメリカ中で大きな注目を集めることになる。最後の3日間は、睡眠を研究する専門家による観察を受けることになり、断眠の経過は、後に論文として発表された。〉(『睡眠の起源』より) 人だけでなく、動物の断眠の実験から見えてくることもある。 〈断眠ラットは実験前に比べて、睡眠時間が87.4パーセントも減った。断眠ラットは、食事量が増えた一方、体重は減少した。さらに、皮膚の傷が目立ち、足の腫れが見られるようになって、断眠を始めてから2~3週間で、死んでしまったのである。〉(『睡眠の起源』より) あたりまえな話ではあるが、眠らないでいると、脳だけでなく全身にさまざまな不調が生じるということなのだ。 つづく「睡眠は「脳の誕生」以前から存在していた…なぜ生物は眠るのか「その知られざる理由」」では、常識を覆す「脳がなくても眠る」という新発見から、多くの人が知らない「睡眠の現象」という正体に迫る。
現代新書編集部