「人材の獲得競争も起きている」 15年目の地域おこし協力隊は曲がり角 応募がほぼない自治体も…乏しい定着支援、コロナ後の出社回帰も影響か
「移住促進」…言葉は聞こえがいいが
地方に移住して活性化に取り組む「地域おこし協力隊」。15年目に入った事業は自治体間の獲得競争や定着の難しさに直面し、曲がり角に立たされている。新型コロナの感染拡大をきっかけにしたテレワークなどの新しい働き方も落ち着きを見せつつあるとの声もある。各党は今回の衆院選で、移住促進や地方の活性化に向けて聞こえのいい公約を並べるものの、県内への移住者らは具体的な支援の在り方について踏み込んだ論戦を求めている。 【写真】長野県の村に移住したが事業継続の難しさも
移住先の村の地元産にこだわる
「まだまだ試行錯誤を続けている」。長野県下伊那郡泰阜村に10年前、さいたま市から移住した長尾透さん(63)は7年がたった会社経営の難しさをそう語った。地域資源を生かして起業しようと協力隊員として村に赴任。かつて村で盛んだったこんにゃくの製造と販売の事業を立ち上げた。 廃校となった小学校の給食調理室を工場として活用。材料は地元産にこだわり、余計な添加物は使わない―と胸を張る。今も赤字が続き、今年4月に発売した新商品でようやく販路が拡大した。
必ずしも経営の知識があるとは限らない
移住前は会社員。起業してからは支払うマージンはどのくらいが適正か、価格設定はどうしたらよいか―など分からないことだらけだった。協力隊を目指す人は地域で事業を始めようとしても、必ずしも経営の知識があるとは限らない。「ビジネスに関するサポートが弱かった。実践的なことを一から学べるような支援が必要」と訴える。 木曽郡上松町で3月まで協力隊員を務めた徳永久国さん(33)は沖縄県に移住した。木工の仕事で独立することを考えていたが、断念。任期中は町の業務に追われ、個人として技能を磨く時間は少なく、仕事に必要な場所や道具の確保はままならなかった。協力隊制度を活用する町の方向性も曖昧に感じ、「自治体だけでは細かな運用面で戸惑ってしまうこともあり、手助けが必要だろう」と指摘する。
人と自治体をつなぐマッチングの仕組みあれば
総務省は地方へさらなる人の流れを生み出そうと、協力隊員を2026年度までに全国で1万人に増やす目標を掲げる。下伊那郡天龍村は11年度から計26人が活動。任期を終えた人たちは伝統の継承、特産品の販売、体験イベントの開催などに取り組むなど、村ににぎわいを生んでいる。 以前は募集人数を大きく超える応募があった。だが本年度は応募がほとんどなく、採用できていない。担当する村職員の福士冬吾(とうご)さん(31)は「自治体間で協力隊員の獲得競争が起きていると感じている」。泰阜村職員の山崎笙吾(しょうご)さん(33)は「やりたいことがある人と、必要としている自治体とをつなぐマッチングの仕組みがあると良い」とする。 各党は衆院選で、地方の活性化に関する公約として、地方創生交付金の倍増や地域おこし協力隊の拡充、デジタル技術の活用、都市部から転職しやすい仕組みづくりなどを掲げる。長尾さんは「抽象的でありきたりな印象。僕でも言えそう」と受け止める。 ひと言で「地方」と言っても、長野市や松本市といった中核市と泰阜村のような過疎地では事情が異なる。公約では一緒くたにされているように見えるとし「(地域の)実情に合わせてもっと具体的に、達成目標が分かりやすくなるように地方のことを考えてほしい」と注文する。