武内英樹 監督が語る オールスターキャストが演じる個性的な偉人たちと国民の対話の物語『もしも徳川家康が総理大臣になったら』
人気ドラマの全盛期から、コメディ映画監督に
池ノ辺 監督は、早稲田大学を卒業後フジテレビに入社し、そこから映画監督をされているわけですが、昔から映画監督になろうと思っていたんですか。 武内 いや、まったくなかったですね。それどころかテレビっ子でもなかったんです。うちの親が、テレビを見たらバカになるといって、中学2年の時にテレビが壊れたのをいいことにずっとテレビを買わなかったんです。だから中3から大学生まで、ほとんどテレビを見ていません。それが就職活動の時、ちょうどバブルの頃でマスコミが流行っていたんですね、友人にくっついて受けたら間違って入っちゃったんです。ドラマ部に配属されたんですが、当時の自分はほとんどドラマを見たことがないという状態でした(笑)。それでも入社1年目に「東京ラブストーリー」(1991)、2年目に「101回目のプロポーズ」(1991)、その後も「愛という名のもとに」(1992)、「ひとつ屋根の下」(1993)などの作品が放映されていた時代です。当時はいわゆる月9のドラマが視聴率35%という時代、最後は37.8%くらいまで行きました。それまでドラマなんて見たことがなかったのが、たまたまそういう人気のドラマの制作現場の真っただ中にいて助監督として働けて、それはすごく楽しかったです。 池ノ辺 あの頃テレビと映画がものすごく盛り上がって、ドラマも面白い時代でしたよね。 武内 面白かったですね。きつい現場でしたけど作っているうちにだんだん喜びを覚えてきました。その後、「神様、もう少しだけ」(1998)では自分がチーフディレクターになっていました。この頃は社会派の作品が多かったのですが、「カバチタレ!」(2001)あたりからコメディに目覚め始めたんです。「電車男」(2005)、「のだめカンタービレ」(2006)などで、どんどん、コメディの面白さと奥深さを感じられるようになって、その「のだめ~」の映画版から映画監督を務めるようになりました。『テルマエ・ロマエ』(2012)『今夜、ロマンス劇場で』(2018)と続いて今に至ります。 池ノ辺 それでフジテレビは2年前にお辞めになったんですね。バカになるからとテレビを見なかった時代から、トレンディドラマ全盛期にフジテレビに入ってドラマを撮って、今や映画監督として、役者さんたちと酒を酌み交わしながらいい作品を作っている。すごい流れですね。そんな監督にとって、映画って何ですか。 武内 こういったら誤解を招くかもしれませんが、自分にとってはプラモデルを作っているような感じです。 池ノ辺 監督はプラモデルが好きなんですか? 武内 好きです。子どものころからよく作っていました。プラモデルは、一つ一つのパーツを組み立てていくんですが、毎日の作業で、本当に一部分しかできないわけです。それでも最終的にどういうモデルが出来上がるのかを想像しながら作りあげていく。映画も同じで、細かな部品を毎日作って、それを編集で重ね合わせて、最終的には音楽をつけたりCGを入れたり、という最後の塗装のような作業がある。すごく贅沢な趣味をやらせてもらっているような感じです。 池ノ辺 好きなことを仕事としてできているというのは、すばらしいことですよね。 武内 ありがたいことです。特に自分はちょっとトリッキーな作品をやることが多いので、完成形がどうなるのか、自分でも読めないところがあるんです。もちろんある程度はこんな感じにしようと想定はするんですけど、固めきっていないところで手探りでパーツを作りながら進めていく、あるいは、途中でいろんな人の意見を聞いて、そういう見方があるんだ、そういう面白さがあるんだ、という発見をしながら、パーツを作り変えてはめていく。そういう作業が今はすごく面白くて楽しいですね。 池ノ辺 この作品でも途中で変わったところがあるんですか。 武内 そうですね。この作品は2年前に作り始めたんですけど、当時の想定と違っていることはいくつかあります。 例えば音楽は、最初は「大江戸捜査網」のテーマのようなものを想定していたのが、思いがけないものがめちゃくちゃはまりました。登場人物も実はずいぶん原作と変わっています。菅原道真や平賀源内らが退場して、聖徳太子や紫式部が入閣してます。 池ノ辺 それはどういう意図から変更したんですか。 武内 一つは、多くの人にとってどれだけイメージが広まっているかということがあります。僕は歴史が結構好きなので、平賀源内も知っていますけど、知らないという人が多いということで外したりしています。そこは探るのが難しかったですね。 それと、日本の歴史というのはギネスブックにも載っているけれど、世界最古の歴史の長さがある。そういうことをみんなが知らないというのはちょっと問題だと思ったんです。だから日本の最初の一滴から、利根川の河口まで、脈々と流れる大河が、過去から現代までをつなぎ、さらに未来までつないでいかなければいけない。それはこの作品の大きなテーマの一つですから、その河の長さを表現するために必要なキャストにしています。 池ノ辺 プラモデルのように作りあげた作品を皆さんに劇場で観てもらって、そこからまた次の映画にもつながっていくわけですね。
インタビュー / 池ノ辺直子 文・構成 / 佐々木尚絵