武内英樹 監督が語る オールスターキャストが演じる個性的な偉人たちと国民の対話の物語『もしも徳川家康が総理大臣になったら』
偉人内閣と現代をつなぐ存在
池ノ辺 新人記者の西村理沙役の浜辺美波さんは、現代の、しかも生きている存在という設定でした。過去の偉人たちとどう絡み合っていくのかについて、監督はどう伝えたんですか。 武内 美波ちゃんの役柄は、現代の最も一般的な、いわば国民代表みたいな存在です。最初は歴史にもあまり興味がなくて政治にも選挙にもそんなに興味がない。そういう20代前半の女の子が、偉人たちと触れ合うことによってどんどん意識が変わっていくわけです。そこから見ると、これは一つの成長物語であるともいえます。だからこそ、彼女はスタートのごく普通の女の子をうまく表現していたし、偉人たちに触れ、その思いとか意志に触れ、どんどん凛々しくなっていく。そのあたりの表現もうまくいったと思います。 池ノ辺 確かに、話が進むにつれ顔つきがどんどん変わっていきましたよね。最後はすごく素敵な女性になって立っていた。あれはグッときました。それと、すごく心に響いたのは、「トップに立つものの仕事は決めること。任せること、そして責任を取ること」という秀吉の言葉です。ちょっと泣けちゃいました。 武内 あれは痛快でしたよね。僕も原作を読んだときにすごく感銘を受けたし、そういうトップが現れてほしいとあの瞬間みんなが思うんじゃないですか。でもあれって映画が始まって5分くらい? 泣くには早いですね(笑)。 池ノ辺 一応私も経営者ですから、上に立つものがそうじゃなくてどうするんだと(笑)。ほかの経営者の方たちとの集まりでもその話をして、この映画をぜひ観てくれと宣伝しておきました。華やかでグッときて、面白くて痛快な映画だと。 武内 ありがとうございます。
映画業界の働き方改革で得られたもの
池ノ辺 現場はどうでしたか。 武内 その時、『翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~』と『はたらく細胞』と3本立て続けに撮影していまして‥‥。 池ノ辺 3本立て続けに!それは大変だったんじゃないですか。 武内 確かに楽ではないですけどその3本の中では現場も役者の皆さんも、比較的安定していました。この作品は、日本映画制作適正化機構、いわゆる「映適」による新たな認定制度が始まって初めての作品だったんです。ですから、長時間にわたる撮影をしないように労働時間に配慮するとか、休みをしっかり取るとか、そういう基準を守って作りました。そうすると寝不足で撮影してミスが続くとか、現場がギスギスするとか、そういうことがなくなりました。もちろんその分、制作期間が延びたりしてお金はかかるんだけれど、そのほうがスムーズに回っていく感じで、精神的には楽でしたね。 ただ、僕の作品はエキストラがめちゃくちゃ多いんです。どの作品でも毎回500人、600人くらいいるんです。それだけの人数を朝から集めて、メイクや服装を準備するというのは、それだけで相当時間がかかりますからね。 池ノ辺 CGじゃないんですね。 武内 もちろん一部には使っていますけど、この映画のテーマは偉人たちと国民の対話の物語ですから、大勢の国民たちに相対したときに偉人たちがどう出るのか、そして国民がそこにどう呼応するのか、そういう表現をしようと思うとそれだけの人数は必要だと思ったんです。CGだと思うと感情移入できないでしょうから、お金がかかっても頑張りました。 池ノ辺 撮影中のエピソードで他に心に残っていることはありますか。 武内 最後の演説のシーンは、静岡で4日間くらいかけて撮ったんです。ある程度の時間になるとそこで撮影を切るので、夜は時間があるんです。それで偉人を演じる役者たちと飲みに行って親睦も深まったし結束力も高まりました。すごくいいチームワークでできたと思います。ただ、とにかく皆さん濃いキャラで個性的で、自分は動物園に放り込まれた調教師というか、オリンピックの選手村に迷い込んだ一般人みたいなそんな感じでしたよ(笑)。でもそれがすごく楽しくて幸せでした。