批評家が選ぶ、クリント・イーストウッドの監督代表作ランキング!“生きる伝説”の半世紀以上のキャリアをたどる“フレッシュ”10選
『半魚人の逆襲』(55)でスクリーンデビューを飾ってから、2025年でちょうど70年。“ドル箱三部作”と呼ばれるセルジオ・レオーネ監督のマカロニ・ウエスタンでスターの座にのぼりつめ、『恐怖のメロディ』(71)で監督デビュー。そこから半世紀以上にわたって俳優として、監督としてコンスタントに作品を発表しつづけている“生きる伝説”クリント・イーストウッド。 【写真を見る】94歳を迎えてもなお現役!40本目の長編監督作は過去30年で最も高い評価に これまで2本のアカデミー賞作品賞受賞作を生みだし、自身もアカデミー賞監督賞を2度獲得。94歳を迎えた現在も映画への活力を失うことなく活動し、先日40本目の長編監督作となった『陪審員2番』が配信開始となったばかり。そこで本稿では、映画批評を集積・集計するサイト「ロッテン・トマト」を参考に、これまでイーストウッドがメガホンをとった映画作品のなかから批評家の評価が特に高い10作品を一挙に紹介していきたい。 「ロッテン・トマト」とは、全米をはじめとした批評家のレビューをもとに、映画や海外ドラマ、テレビ番組などの評価を集積したサイト。批評家の作品レビューに込められた賛否を独自の方法で集計し、それを数値化(%)したスコアは、サイト名にもなっている“トマト”で表される。 好意的な批評が多い作品は「フレッシュ(新鮮)」なトマトに、逆に否定的な批評が多い作品は「ロッテン(腐った)」トマトとなり、ひと目で作品の評価を確認することができる。中立的な立場で運営されていることから、一般の映画ファンはもちろん業界関係者からも支持を集めており、近年では日本でも多くの映画宣伝に利用されるように。映画館に掲示されたポスターに堂々と輝くトマトのマークを見たことがある方も多いだろう。 それでは、クリント・イーストウッド監督作の“フレッシュ”10傑を挙げていこう。 ■96%フレッシュ『許されざる者』(92) ■94%フレッシュ『荒野のストレンジャー』(73) ■93%フレッシュ『センチメンタル・アドベンチャー』(82) ■93%フレッシュ『陪審員2番』(24) ■93%フレッシュ『ペイルライダー』(85) ■91%フレッシュ『硫黄島からの手紙』(06) ■91%フレッシュ『アウトロー』(76) ■90%フレッシュ『ミリオンダラー・ベイビー』(04) ■90%フレッシュ『マディソン郡の橋』(95) ■89%フレッシュ『ミスティック・リバー』(03) ■“集大成”といわれる最新作『陪審員2番』も高評価を獲得 40本ある監督作品のうち9作品が90%以上という安定感もさることながら、惜しくも上位10作品にあと一歩届かなかったデビュー作の『恐怖のメロディ』と『ハドソン川の奇跡』(16)を含めれば1970年代から2020年代まで6つの年代の監督作品が上位12本以内に入るというのも驚異的。そのなかで最も高い評価を獲得したのは、やはりイーストウッドの監督としての評価を確たるものとした『許されざる者』だ。 同作はイーストウッドが師であるドン・シーゲルとセルジオ・レオーネに捧げるかたちで作り上げた渾身の西部劇。かつては西部で名を馳せた悪党だったウィリアム・マニー(イーストウッド)は、改心して静かに貧しい暮らしを送っていた。そんななか賞金稼ぎの話を持ちかけられ、かつての仲間だったネッド(モーガン・フリーマン)と共にその話に乗ったマニーだったが、彼らの前に保安官のリトル・ビル(ジーン・ハックマン)が立ちはだかる。 96%フレッシュという高いスコアが示しているように、批評家から大絶賛を獲得した本作は興行的にも成功。また、第65回アカデミー賞では9部門にノミネートされ、作品賞と監督賞など4部門に輝き、それまでアクション映画を監督する西部劇スターという立ち位置であったイーストウッドへの評価が一変。重厚かつ濃密なドラマを手掛ける実力派監督の一人としてその名を轟かせることに。 とはいえこの『許されざる者』に次ぐ94%フレッシュの高評価となったのが、監督第2作として手掛け自ら主演も務めた王道の西部劇『荒野のストレンジャー』。さらに、映画ファンからも人気の高い『ペイルライダー』が93%フレッシュ、『アウトロー』も90%フレッシュで上位にランクイン。イーストウッドの代名詞である西部劇は、特に批評家からの人気が高いようだ。 それでも戦争映画『硫黄島からの手紙』が91%フレッシュ、文芸ラブストーリーの『マディソン郡の橋』が90%フレッシュ、ミステリー要素が前面に押し出された『ミスティック・リバー』が89%フレッシュで入っているように、先述の年代別だけでなくジャンル別でも満遍なく高評価作品を生みだしているのはさすがである。そして、そんなイーストウッドの“集大成”ともいわれている『陪審員2番』は、93%フレッシュと近年の作品では頭ひとつ抜けた高評価に。 とある殺人事件の裁判で陪審員を務めることになった男ジャスティン(ニコラス・ホルト)が、思わぬかたちで事件と自分との関係に気付き、深刻なジレンマに悩む姿を描く法廷ミステリーである同作。緻密に練り込まれた人物描写と、イーストウッドらしい淡々としながらも的確な語り口で、司法制度の課題や“正義とはなにか?”という大きな問いを投げかける。年齢的なこともあって“最後になるかもしれない作品”といわれているが、才気の衰えは一切感じられない完成度の高さを誇っている。 この『陪審員2番』は当初からストリーミング配信での公開が予定されていたが、北米では限定的な規模での劇場公開が実現。それでもスタジオ側の判断は大きな論争を呼ぶこととなり、特にイーストウッド作品の人気が高い日本では劇場公開を求める映画ファンが署名運動を起こしたほど。今後同作が劇場で上映されることに期待しつつ、まだまだイーストウッドには映画を撮りつづけて(かつ自ら主演を張って)ほしいと願うばかりだ。 文/久保田 和馬