社説:医師の偏在対策 規制の手法に踏み込め
都市部への集中や勤務医不足といった「医師の偏在」にいかに歯止めをかけるか。これまでの誘導策の限界を踏まえ、地域の医療を守り抜く、より踏み込んだ対策が求められる。 今春からは残業時間に上限を設ける医師の働き方改革が始まった。やりくりと確保がいっそう厳しさを増し、地方医療の縮小への危機感が強まっている。 厚生労働省は、9月に偏在是正に向けた推進本部を発足させ、総合対策を年内に取りまとめるとしている。 全国の医師数は一昨年末に34万人を超え、偏在対策の医学部定員増で過去最多が続く。だが、患者対応の忙しさや不規則さから外科、救急などの診療科や、地方の勤務は敬遠されがちだ。一方で、都市部での「ビル開業」や自由診療の美容医療などに流れる偏りが顕著になっている。 人口当たりの医師数など充足度を表す同省「医師偏在指標」で、京都府は全国上位の多さ、滋賀県は中位だ。ただ二次医療圏では上位の京都、大津両市域に対し、丹後や甲賀などは下位と分かれ、診療所・科の統廃合が絶えない。 厚労省が提示した対策案で注目されるのは、規制的な手法の検討である。医師が多い地域での新規開業の抑制や、公立病院長になるのに地方勤務の経験を求める要件の拡大などを俎上(そじょう)に載せた。 これまでの医学部卒業後に特定地域での勤務を条件とする「地域枠」など養成・誘導策に加え、より強制力のある医療法などの法令改正を視野に入れる。 一方、医師の多い地域での診療報酬引き下げ論には日本医師会会長が反対を表明。病院長の要件拡大案には、日本医学会連合が「若手医師のキャリアや選択の自由を脅かす」との意見書を出した。 だが、医師の養成には多額の公費が投入され、国民皆保険の医療制度は税金と保険料に支えられた公共のインフラである。これ以上の地方医療の先細りを食い止めるには、実効性を持たせる一定の規制策に踏み出すべきだろう。 もちろん、長期の地方勤務によるキャリア形成への不安に配慮し、先端医療の学び直しや多様な臨床経験を積める研修制度の拡充、支援も重要である。 デジタル技術によるリモート診療や広域的な支援、業務分担などによる負担軽減も進めたい。子育てや高齢などを理由に現場を離れた人材の潜在力を引き出すことにもつながるだろう。