女性の脳は月経周期で劇的に変化すると判明、感情や記憶への影響は未知数、最新研究
主に感情・記憶・情報伝達などに関わる領域、女性の健康にとって極めて重要な可能性
月経周期を生じさせている女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)の増減にあわせて、感情や記憶、行動、情報伝達の効率などをつかさどる脳の領域も劇的に変化していることが、同時期に発表された2つの研究で示唆された。2023年10月5日付けで学術誌「ネイチャー・メンタル・ヘルス」に発表された研究と、2023年10月10日に査読前論文を投稿するサーバー「bioRxiv」で公開された研究だ。 「病気を生む顔」になる食べ物とは 画像5点 女性の脳の変化が感情や認知にどんな影響をもたらしているのかまではまだわからないが、米ノースウェスタン大学の神経生物学者であるキャサリン・ウーリー氏は、「ほとんどの女性が30~40年間に約450回の月経周期を経験することを考えれば、月経周期に伴う脳の変化は非常に重要です」と言う。
女性ホルモンで海馬とその周辺の形が変わる
ウーリー氏は今から約30年前の1990年に、エストロゲンがラットの脳の海馬という部位で、ニューロン(神経細胞)の「樹状突起スパイン」というトゲ状の構造の密度を調節していることを偶然発見した。海馬は耳の後ろの脳の奥深くにある小さな湾曲した構造で、記憶をつかさどっている。 今では、海馬には性ホルモン受容体が密集していることが知られている。また、海馬は成人の脳の中で体積が最も変化しやすい部位でもある。 高齢になってから曲芸を習得したり、ロンドンのタクシー運転免許試験に合格するために地図の勉強をしたりして新しいスキルを身につけると、海馬が大きくなることがわかっている。一方、海馬の萎縮は、認知症、特にアルツハイマー病の初期症状の可能性がある。 ウーリー氏の画期的な発見以来、科学者たちは、成人女性の脳が毎月の女性ホルモンの増減に伴って変化するかどうかを知りたがったが、そのためには1人の女性の脳を何十回も測定しなければならない。その被験者に立候補したのが、米カリフォルニア大学サンタバーバラ校の神経科学者エミリー・ジェイコブズ氏のグループに所属する女性科学者だった。彼女はある1カ月間、24時間ごとに脳をスキャンされることに同意した。 ジェイコブズ氏の研究チームは、この女性の脳を30回スキャンした結果、女性ホルモンが海馬とその周囲の領域の形を変え、脳の結合を再編成していることを発見し、2020年に学術誌「NeuroImage」に発表した。 さらに、ドイツと米国の科学者チームが先に述べたように2つの研究を独立に行い、合わせて50人以上の女性の脳を月経周期の複数の時期にスキャンした。