女性の脳は月経周期で劇的に変化すると判明、感情や記憶への影響は未知数、最新研究
驚くべき速さ、非常に広い範囲
「ネイチャー・メンタル・ヘルス」の研究は、ドイツ、マックス・プランク人間認知脳科学研究所の精神科医で神経科学者のユリア・ザッハー氏のチームによるものだ。 ザッハー氏らは超音波を使って27人の女性ボランティアの排卵時期を厳密に特定し、月経周期の6つの時点で血液サンプルを採取して、排卵と血液中のホルモン濃度を関連づけた。次に、高性能の超高磁場MRIを使って、27人の女性の脳を6つの時点でスキャンした。 その結果、月経周期とともに海馬を含む「側頭葉内側部」のそれぞれの領域が変化する様子を観察することができた。エストロゲン濃度が上昇し、プロゲステロン濃度が低下すると、海馬の周囲にある灰白質の体積が増えた。しかし、プロゲステロン濃度が上昇すると、記憶に関わる別の層が拡大した。 「成人の脳がこれほどの速さで変化するのは驚くべきことです」とザッハー氏は言う。 もう1つの「bioRxiv」の研究は、ジェイコブズ氏やカリフォルニア大学サンタバーバラ校の神経科学者であるビクトリヤ・バベンコ氏らが行った。 氏らは30人のボランティアについて月経、排卵、次の月経までの間という3つの時期の脳をスキャンした。すると、灰白質の厚みだけでなく、「白質(ニューロンの細胞体から伸びる線維が集まっている領域で、脳では灰白質より内側にあり、灰白質のさまざまな領域を結びつけて情報をやりとりしている)」の構造的な特徴も、ホルモンの合図を受けて変動していることが明らかになった。 この知見は、排卵に至るまでのホルモンの変動が白質を変化させて、脳のさまざまな部位の間の情報伝達の効率を高めている可能性を示唆している。「これらの変化は非常に広範囲に及んでいます」とバベンコ氏。
「女性の健康について、脳を重視するべき時が来た」
なお、これらの研究で観察された脳領域の体積や厚みの変化は、まだ特定の脳機能とは関連づけられていない。科学者たちは、脳の特定の領域の構造が月経周期のホルモンの変動と連動して変化しているとしても、それが記憶や認知機能に影響を及ぼすことを意味するわけではないと言う。 ウーリー氏は、「脳の特定の機能やプロセスにとって、大きい方が良いのかどうかはまだわからないのです」と言う。 また、脳領域の体積の変化が、女性が月経中に経験するさまざまな感情的・認知的な症状と関係しているかどうかもまだわからない。実際、これらの研究は、こうした症状を報告しなかった健康な女性のみを対象としている。 ジェイコブズ氏は、これらの研究は、女性特有の神経科学的なニーズについて研究する必要性を浮き彫りにしていると指摘する。 アルツハイマー病患者の70%、うつ病患者の65%が女性であるにもかかわらず、女性に関する脳画像研究は全体の0.5%しか行われていない。この格差は医薬品の承認においても見られる。例えば、初期のアルツハイマー病の治療薬として承認されたレカネマブは、女性に対しては進行を遅らせる効果がないかもしれないとする研究結果が発表されている。 ザッハー氏は、「女性の健康について、脳を重視するべき時が来たのです」と語る。
文=SANJAY MISHRA/訳=三枝小夜子