チームが求める打撃を…「評価されてこそ起用してもらえる」大谷翔平の打撃美学
逆方向へのバッティング
その6月16日、ロバーツ監督が報道陣の前に姿を現す1時間ほど前に大谷はロッカールームで準備を行い、データ資料と映像資料を手にし、食事スペースへと向かって行った。打撃の方向、自分の理想とする打撃を追求する中でも大谷は常にチームの評価と自分の打撃を照らし合わせ、答えを出しにいく。打席ごとに相手投手の配球データを確認し、狙いたい球種、コースを確認する。そして、打球方向を意識しながらネクストバッターズサークルでイメージをふくらませながら打撃フォームの微調整を行う。結果、この日は今季初の2打席連続ホームラン。第1打席はロバーツ監督が求めていた逆方向への第18号だった。 「あの方向に長打が出るのは良い傾向」と本人も手ごたえを口にした。そして第2打席は外からのスライダーに対して、体のタメを作っての右中間中段へ、高々と打ち上げる完壁な一発。18日のロッキーズ戦では今季最長となる145メートルの超特大弾が飛び出し、そこまでの3試合は13打数7安打3本塁打5打点。“ミスタージューン大谷”が今年も戻ってきた形だ。 そして何より7安打のうち打球方向がセンターから左の安打が5本(うち長打が3本)とロバーツ監督が指摘する身体が開き、引っかけての凡打が減少。右の壁を作っての逆方向への会心の打球が一気に増え、指揮官の要求に見事にこたえた形だ。 「16日の左中間への本塁打、そして今日のセンターへの本塁打も今まで見たことがない打球だった。言葉にならない、別次元だ」とロバーツ監督はこの3試合の大谷打撃に最大の称賛を送った。
大谷を支える裏側の努力
世界のスポーツ史に残る大型契約を結んだ大谷。ケガで長期離脱となった山本由伸ももちろん同じ大型契約だが、次も、明日も必ず使ってもらえると彼らは思っていない。高次元の中で激しい競争に打ち勝つために日々、戦っている。想像を絶する競争の中で戦っている。 「由伸は1試合1試合、人一倍の頑張りをしているし、そばで見ていてそう思う。だから早い段階で、いい状態で投げられるようにサポートしたい」と大谷は山本を労った。ドジャースのチームメートは「翔平を支えるのは見えていない裏側の努力」と彼を評する。 「チームに評価されるために自分の理想とチームが求める打撃を融合させる」。慢心なんて毛頭もない。今まで以上の重圧と重責と向き合う。世界唯一無二のアスリートとなるためにあえてドジャースを選んだ。だからこそ、今季の大谷翔平の打撃美学はさらに研ぎ澄まされるであろう。 文=田中大貴 写真=Getty Images
週刊ベースボール