青木真也という怖さ、真実と向き合えている上野勇希の手応え【週刊プロレス】
リスクがなければ自分の中に あるものは絶対に出てこない
――今回に関してはけっこうなリスクを負っていますよね。同じ世界線でやってきた相手であればある程度こういう感じだと予測できるでしょうけど、青木選手はまったく違うところからきて、DDTの中では“異物”としてい続けることで存在価値を体現している。異物と交わるリスクは、計り知れないじゃないですか。今までの防衛戦で重ねてきたのが、一試合で瓦解する可能性もあるわけです。 上野 リスクがなければ見てもらう価値がないし、何も生まれないし、自分の中にあるものって絶対出てこないと思っていて、ずっとDDTってこんなにおもろい、すごいものが詰まっているものなのに、液体にたとえたらそれが何層にも分かれていて、本当はそれがごちゃ混ぜになっているのがDDTなのに、ある時から上澄みに強さがあって面白さとかが何層にも分かれている感覚があった。僕はそれを振って子どものようにグチャグチャにしたいし、できてきた。僕が今持っている力で振り回したんです。自分自身が満たされるためのことともう一つ、チャンピオンとしてやらないといけないのはこの入れ物を大きくしたり、その中にもっとおもろさの層を詰めたりしないといけない。その膨らませる力が今の僕にあるかというと、満たされたことによってないなと思ったから、青木真也というリスクと闘うことで乗り越えて、自分が振り回したDDTに上野勇希の何かをもっとつぎ込むことができる確信があるんです。その中で怖さも、ベルトも、DDT自体もそうだし、上野と青木という関係も、もう全部ぶっ飛ぶかもしれない。でもそれぐらいのものを常に持たないと、上野ってDDTのチャンピオンだよね、両国のメインを2回やってなんていうのは過ぎ去っていくものだし、どうやったら面白くなるかは本当に単純で、上野勇希というものがもっと膨らんでいかないといけないんです。 ――物理的な怖さで言うと、青木選手の練習を拝見させていただいたんですが、試合の時より至近距離で見ると、とにかくあの目で見られたら体が動かなくなるのではと思うほどでした。あの目と1対1で向き合うんですよね。 上野 (7・26)新宿大会で感じたあの目…いやあ、青木さんが彰人さんに勝って『バカサバイバー』が流れる中、何かメチャクチャ言ってくるんですけど、距離があったからそれが全然聞き取れなくて。でも何か言われているからいくかと思っていったら「おまえがリングに上がってきたら殺せるぞ」と言われた。その時は僕だって「いやいや、ナメんなよ」って思いました。でも、エプロンに上がって試合を終えたばかりで全開の青木真也を目の前にしたら、ベルトを持って青木真也の上に立ったろかぐらいの気持ちだったのが「あ、怖い」――これは今入ったら…あの一瞬、僕の中にいろんな自分があったわけです。言われてむかつくからベルトで殴ってやろうかとか、入ってみたら実際にどうなるか試してやろうかとか、頭がグーッと回るんですけど、このままリングに入ったら、殺されるか手を抜かれるしかないなと。そう思った時に、入るという選択はできなかった。これはもう、完全に怖気づいたという文字が出てくるぐらい。 ――自覚したんですね。 上野 逆に言えば、これは家に帰ってからだったんですけど、青木真也が言う「殺せるよ」という言葉だから、そこには真実しかない。それを怖いと思えて、しっかりと向き合えていることが自分はその“っぽいこと”を捨てられているなと感じたんです。 ――怖いと思ったことに対しても正直にいられた。それは手応えとも言えます。 上野 自分をちゃんと見られているなって。それに抗うのも正解だし、あのまま襲いかかるのもあるんだろうけど、僕の素直な気持ちは無策で、こんな心持ちで上がった人間が青木真也を無視することはやっぱりできなかったし、しなかったことで進められてきているなと怖気つきながらも思いました。 ――怖気づいた相手に向かっていかなければらないんですよ。 上野 青木真也が恐ろしいことなんて本当にわかっていて、でも僕は殺されたくもないし負けたくもないし、勝つためにやるし超えていくためにこのベルトを懸けてやる。それぐらい大きなものだから、青木真也は。自分が情けないと思うのもあったり、自分のことを勝手に誇れるような気持ちもあったり、全部を含めてこのタイトルマッチが楽しみだし、怖い。二つの対照的な感情が交互に出てくるのが上野だなって思えるし。 ――怖いと思う人間にそれでも向かっていくことで自分自身も知らない自分を出したい願望があるんですね。 上野 異物って言いましたけど、それを言ったらDDTだけじゃなく全世界において異物なわけですよ。その世界に馴染むのではなく、独立した存在としている青木真也ですから。僕はそうならないといけないし、でもそうなるといって青木真也に倣ってなれるものじゃないから、常に怯えながらでも自分というものをしっかり持ちながら、影響されながらやっています。 ――そうしたことがわかっていれば、触れることなく自分を護こともできるのに、自分から踏み込んでいくのが上野選手なんですね。 上野 自分の器がちっちゃいなら、それをぶち壊したり広げたりするのは自分の力であって、対戦相手との闘いだから、それを形として見てもらえるのがKO-D無差別級のタイトルマッチという今の自分のできることなんで。そこで向かっていかなかったら自分にはなんの価値もない。そのためにリングへ上がっているんですよ。 ――昔から勇気のある子どもでしたか。 上野 全然! 逃げてばっかりで、何もかもそうでした。プロレスラーになりたいと思ったところから少し変わって、なった時にまた少し変わって、デビューはしたけど竹下に勝てないよって言ったらタケが怒ってまた少し変わって、KO-Dタッグを獲って少し変わって、クリスと出逢ってUNIVERSALを獲ってまた少し変わって、青木真也に変えられて、タケがアメリカにいくとなってDDTを背負って俺がDDTになるんだってなった時にもっと大きくなって…本当にちょっとずつ、ちっちゃいちっちゃいも何もない人間だったのが、プロレスと出逢うことで壊れたり広げられたり、楽しくも苦しくもあるものをずっと積み重ねてきて今の自分がいるんです。昔から完成されているものは僕の中に何もないから、常に自分を信じて進んでいった結果が今なので。満たされたものを見せ続けることでも満足してもらうことは可能なんだろうけど、僕はもっともっと大きくなりたいし、DDTを大きくしたいし、大きくなることでみんなに見てもらいたいから、自分自身が満たされているところで満足するわけにかない。 ――普通は満たされることを目指すものですが、その先にいくと。 上野 今まではもともと面白いDDTを、こういう見方もあるよ、僕ならこうするというのを見せてきただけで、僕自身の力で何かが変わっているというものはない。でも、僕自身の力で変えるものが必要だし、そのためにはこのリスクと恐怖を越えて進んだ結果、もしかしたらそこに何もないというものがあるのかもしれないし、また苦しんでいくことは間違いないんですけど、それでも僕はプロレスラーでDDTのチャンピオンだから“怖いもの”である青木真也の存在の前に立たないといけないんです。
週刊プロレス編集部
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