行政の防災DXはどう進むのか――デジタル庁がアプリ開発やマイナンバーカード活用など紹介
デジタル庁は6日、現在取り組んでいる様々な政策について、報道機関向けに説明するイベントを開催。その中で防災に関わるデジタル化の政策について紹介する。 【画像】防災デジタルプラットフォームと連携するデータ連携基盤を作り、それをアプリが参照することで毎回同じ情報を入力しないで済むようにするなどの環境づくりをする デジタル庁は「準公共部門」として、デジタル化の推進を図る分野として防災を掲げている。2024年6月に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、重点的な取り組みとして防災アプリの開発、利活用の促進、データ連携基盤の構築、被災者支援の充実、防災DXのさらなる推進が取り上げられ、デジタル庁が中心となって取り組みを進めている。 主な取り組みは4つ。防災分野では様々なアプリが利用されているが、結果として同じ情報を何度も入力する必要があるなど、利便性が損なわれているため、アプリ連携をすることで防災アプリ間のワンスオンリーを実現しようという取り組みが1つ。 現在、国や地方公共団体、電力や通信などの指定公共機関の情報を集約する防災デジタルプラットフォームとして「新総合防災情報システム」の構築が進められている。これに連携するデータ連携基盤をデジタル庁が構築することで、民間を含めたアプリ間のデータ連携などを目指し、ワンスオンリーにも繋げたい考え。 現在はプロトタイプの構築を行い、アプリ連携の実証実験中。官民一体の防災DX官民共創協議会(BDX)とも連携して検討を進め、本格的な構築に向けて技術的な検討や制度運用の検討が進められている。2026年度以降にデータ連携基盤の構築、本格運用の開始を見込む。 さらに防災分野のサービスやアプリを、自治体が簡単に検索して調達できるように「防災DXサービスマップ」、「防災DXサービスカタログ」が2023年3月から公開されており、すでに203件のサービス・アプリが掲載されている。 こうした防災分野における自治体の調達を支援するために、標準的な要件や機能などを整理した「モデル仕様書」の作成も進められている。例えば23年12月に第1弾として「避難所運営システム」のモデル仕様書が公開された。 自治体の調達では、デジタル庁がデジタルマーケットプレイス(DMP)を10月31日に公開したばかりで、これは防災分野に限らないサービスだが、防災DXサービスマップもこれと連携することで、自治体がより素早く調達できる環境を整備していく考え。 災害対応の高度化に向けて、デジタル分野での取り組みとしては位置情報やマイナンバーカードを使った実証実験が行われている。避難者支援業務として、2022年の福岡市、神戸市、新潟県、2023年の神奈川県に続き、2025年2月には石川県で実証実験が行われる予定。 2022年は避難者が避難所への入退所、健康状態などをスマートフォンアプリで登録。避難所運営側が避難者数や要望などを円滑に把握できるかを検証。2023年は、マイナンバーカードを活用し、複数自治体が被災した広域災害を想定した。避難者用アプリ、避難所運営・災対本部アプリを構築して検証が行われた。 これまで、避難所では手書きやExcelを使った集計で避難者の管理などをしていたが、2023年の実験では、デジタル庁が開発した実証用アプリとシステムを利用。午前中に従来の手法、午後にシステムを使うことで比較検討を行った。マイナンバーカードを使うことで入退所時の本人確認が円滑化し、薬剤情報の取得、物資の数をカウントするなどの行政サービスの効率化などが期待された。実際、業務削減効果が得られ、自治体職員、避難者(模擬)からも高評価だった。 こうしたツールはデジタル庁もオープン化して地方公共団体などに提供。こうした結果を踏まえて避難所運営システムのモデル仕様書も整備されるなど、取り組みが強化されていた。 そうした中で発生したのが能登半島地震だ。防災の取り組みを進めているさなかだったこともあって、「デジタル面でも課題がいくつも見つかった」とデジタル庁では話す。まず災害発生当初は避難所がどこにあるかすら判明せず、指定避難所以外に集落の個人宅に集まっているという例も多かったという。 そうしたこともあって、自治体、自衛隊、災害派遣医療チーム(DMAT)がそれぞれ情報を収集していたが、システムも異なり、最新情報も分からない状況だった。例えば避難所情報が「A小学校」と「A小学校体育館」で2カ所あるのか、同じ場所なのかも判断できず、避難者の数が100人と500人でどちらが最新情報か分からなかった、といった具合だった。さらに発生後2~3週間が経過すると、1次避難所から移動した被災者がどこにいるのかも分からなくなった。 これまで、被災者台帳は市町村ごとに作成していたが、被災後は市町村をまたいでの移動も多かった。能登半島地震では災害発生後すぐに石川県入りした防災DX官民共創協議会(BDX)のメンバーが、別々のシステムを使う自治体や自衛隊、DMATから得られる情報をまとめて被災者データベースを構築したところうまく機能したという。 こうしたことからデジタル庁では、被災者情報を集約して共有するための「被災者マスターデータベース」構築の検討を開始している。 さらに能登半島地震の経験を生かして、官民連携で適切なデジタル人材を現地に派遣して支援する「災害派遣デジタル支援チーム(仮称)派遣制度」を創設する。 避難者支援におけるマイナンバーカードの活用は、当時はカードの携行率が4~5割程度だったとのことで、活用に至らなかった。その代わり能登半島地震では、BDXと、その会員であるJR東日本の協力によってSuicaを使った被災者把握の取り組みを行った。 これは、手書きで登録した被災者に紐付けをしたSuicaを配布。避難所から県に情報を送信して被災者データベースに記録。その後は、Suicaをタッチするだけで被災者データベースから被災者の情報を引き出せるようにした。避難所や入浴支援サービスで利用されていて、結果的に2万1000枚のSuicaが配布された。 当初は、避難所の入退所受付での利用を想定していたというが、発災からしばらく経過した2月初旬からの展開だったこともあり、新たな仕組みは避難所の負担になるとして、志賀町で数百枚のSuicaが配布されただけだったという。 ただ、想定していなかった被災者向けの入浴サービスで多くの利用があったそうだ。自衛隊の風呂や町営の温泉施設などが無料で利用できるというサービスだが、災害救助法の適用される被災者であることの証明が必要で、住所や氏名などを毎回記入する必要があった。これがSuicaのタッチだけで利用できることから、「爆発的な人気になった」という。 今後は、現地のヒアリングもしつつ、どういった形の提供が望ましいか、どういったニーズがあるかなどの検証もしていきたいとしている。 今回はマイナンバーカードの携行率が低かったことに加え、NFC Type Bを読み取れるカードリーダーを自治体などが保有しておらず、調達には時間がかかることから、JR東日本が即座に提供できる350台のSuica(FeliCa)対応カードリーダーと2万枚超のカードを活用した。 そのため、今後同様の事態に対応するため自治体の備蓄を促すとともに、デジタル庁でも今年度予算でリーダー300台に加えて予備のマイナンバーカードも2万枚ストック。これを組み合わせたシステムも、簡易的なものを最低限開発しておいて、緊急時に早急に導入するようにしたという。 カード携行率の問題に関しては、マイナンバーカードの利用範囲の拡大によって携行率を高めるとともに、来春にもiPhoneにマイナンバーカードが搭載されて、Androidにも拡大が見込まれることから、携行率は上昇すると予測。そうなればスマートフォン搭載を含むマイナンバーカードの個人認証を活用した災害時のソリューションが考えられるとして、デジタル庁ではスマートフォン搭載に大きな期待を寄せている。
ケータイ Watch,小山 安博