エースの石川佳純はなぜ卓球W杯初戦で敗れたのか?
日本のエース、石川佳純(24、全農)が先週、カナダで開かれた卓球女子ワールドカップ(10月27~29日)決勝トーナメントの初戦で姿を消した。石川の世界ランクは日本人最高の5位。ワールドカップでは第3シードで決勝トーナメントからの登場だった。これに対し相手の李皓晴(リ・コウセイ /香港)は世界ランク42位。ワールドカップでは予選グループリーグから決勝トーナメントへ勝ち上がった、石川からすれば格下の選手である。 過去の二人の対戦成績を見ても石川が全勝と力の差は歴然だ。 本人もそのことを自覚していたようで、試合直後に「今日の試合の相手は勝てる相手だった」と話している。では、なぜ石川は李皓晴に初戦で負けてしまったのだろうか。 試合はフルゲーム(1ゲーム11点先取の7ゲーム制)にもつれ込んだ。先手を取ったのは李皓晴。石川は第1ゲームの初っ端からミスを連発し、いきなり7連続ポイントを奪われゲームを落とした。しかし第2ゲーム、さらには第4、5ゲームを奪いゲームカウント3-2とリード。特に第4ゲームは相手に1ポイントしか与えない圧巻の試合運びで流れをつかんだかに見えた。 ところが石川はこの時の心境を、「(第4ゲームを取った後)第5ゲームも取った実感があまりないまま第6ゲームでプレーをしてしまった」と振り返る。そのせいなのか、第6ゲームは8-3でリードしておきながら4連続でミスが続き、たまらずベンチが動いてタイムアウトを取った。この時、何が起きていたのかについて、本人はこう語っている。 「リードしていたのに4ポイントを落としてしまって、(タイムアウト後も)すごい焦ってミスが出た。凡ミスばかりしてしまい、チャンスを決められないうちに自分でどんどん自爆してしまった感じだった」 百戦錬磨の石川をそこまで焦らせたものは何だったのだろう? 約1カ月前に行われたワールドカップの大陸予選にあたるアジアカップ(9月15~17日)で3位表彰台に上がり、その後の練習や調整も順調だったと聞く。唯一、ラケットを新調したため、「新しいラケットにまだ慣れていないので、ミスが出てしまう部分もあった」とは言っていたが、「それは言い訳にならない」と敗因から外している。 現場で見た石川の試合ぶりやコメントなども、明らかな不調やアクシデントは見当たらなかった。だとすれば、敗因として考えられるのは「初戦の怖さ」というやつだったかもしれない。 予選免除で決勝トーナメントから試合に出るシード選手は体力的にも精神的にも温存でき一見有利なようだが、予選を戦うことで会場の雰囲気に慣れ、試合勘を取り戻せるというメリットもあるため、有力選手が自分のペースをつかめないまま格下選手に負け早々に戦線離脱するケースが卓球の大会ではある。しかも相手が格下だと思うと、試合の流れが相手側に傾いた時に「自分が負けるはずがない」という気持ちが焦りを生み増幅させる。 石川も「すごい焦りが出てしまって、最初から最後まで何をやっているのかよくわからないまま負けてしまった。自分のプレーが全然できなかった」と話していたが、それはまさに初戦や格下選手に対してありがちな落とし穴ではなかっただろうか。ただし、格下といっても、各大陸のトップクラス20人が競うワールドカップだったことを忘れてはならない。一戦一戦、どの試合も決して気を抜くことはできないのだ。 石川は次戦、再びワールドツアーに戻り、ドイツオープン(11月7~12日/マグデブルク)に出場する。ワールドツアーの中でも獲得ポイントの高い「プラチナ」に格付けされており、世界王者中国のトップ選手らも参戦する見通し。ワールドカップの悔しさを払拭する結果が欲しいところだ。 (文責・高樹ミナ/スポーツライター)