Netflix「さよならのつづき」プロデューサーが明かす、有村架純&坂口健太郎との撮影秘話~脚本誕生のきっかけ
「糖衣錠」のような作品を
── 岡野さんは『北の国から』で知られる倉本聰さんから影響を受けているとインタビューで拝見しました。 はい、20代の頃にプロデューサーとして一緒にお仕事をさせていただき、たくさんのことを教わりました。中でも「糖衣錠」という倉本さんの考え方※は大切にしています。 ※「糖衣錠」……薬はそのままだと苦くて飲めないため、周りを砂糖でコーティングして飲みやすくする。同じように、作品でも苦いテーマを、視聴者に飲み込みやすくするために工夫することを指す エンターテインメントを作るときこそ、やっぱり苦さは必要だと常に意識していて。『さよならのつづき』でも失われる命や心臓移植手術を扱っています。 ──作中では、有村架純さんが演じるさえ子のフィアンセ・雄介(生田斗真)が事故死してしまいます。そしてさえ子は、彼の心臓を移植された男性・和正(坂口健太郎)と出会ってしまう。和正は雄介と雰囲気や言葉遣いが時折すごく似ているわけですよね。 はい。実際、心臓移植手術をすると、移植されたドナーに記憶が転移し、味覚や趣味嗜好も変化するという事例が世界中で報告されているんです。知らないはずの人に急に手紙を書き出したというエピソードもあります。 ただ、ドラマで扱うには少しヘビーな題材ではありますよね。だから、ちゃんとエンターテインメントという砂糖で包み込みたかった。 よく監督たちと話していたのは、5センチ、10センチ作品を持ちあげようということ。命と向き合う、ただ苦しくて悲しい物語ではなくて、そこに優しさや甘さがあるように。 ロマンチックな出会いの瞬間だったり、北海道やハワイの美しい映像だったりといったビジュアル面には特に力を入れました。 ── そもそも、心臓移植による記憶転移を題材として扱おうと思ったのはなぜでしょうか? 実は、この作品を作り始める前に父が倒れたんです。 ── そうでしたか……。 その時は骨髄移植を検討して結局叶わなかったのですが、いろいろな移植の説明会に参加したり、記事をとにかく読み漁りました。そこで心臓移植による記憶転移というものを知り、なんだかすごく気になってしまって。 主治医の先生に記憶転移について聞いたんですよ。そうしたら、「医学ではまだ証明されていないけど、強烈に他者を愛した記憶は臓器に残るのかもしれない」とおっしゃって。 その日の夜に脚本の岡田惠和さんとの打ち合わせでその話をしたら、「岡野さん、それでラブストーリーを作りませんか」と一気に企画が進みました。 ── ご自身の体験が作品にも息づいてらっしゃるんですね。 本当にそうです。『さよならのつづき』には、「誰かを失ってしまっても、愛された記憶があなたを支える」というメッセージを強く込めたつもりです。それが私自身、父からもらったものなんです。
野田 翔