「大学が就活を支援する」とは? 「どうせ自分なんて」と自信がない学生をサポート
あきらめない教職員
4年次になると毎月、キャリアセンターの職員からすべての学生にメールが届きます。内容は就職活動の進捗確認であるため、活動がはかばかしくない学生は返信が滞りがちです。橋さんは、ある学生の実例を挙げます。 「この学生は明確な目的を持てずに大学に入っており、中高一貫校で一緒だった友達が有名企業に内定していくなかで、『どうせ自分なんて』とやる気をなくしていました。私たちは、メールが返ってこなくても学生への連絡を続けます。過度なプレッシャーをかけないよう気をつけつつ、たまに電話したり、ゼミの教員からも声をかけてもらったりもします。この学生がキャリアセンターに現れたのは、学生生活が残り半年になった9月でした」 就職したいけれど、今になってどうしていいかわからない。高校までのプライドが捨てられない。優秀な友達や家族、親族の目が気になる――。橋さんと向き合って、この学生はこうしたことを少しずつ話しました。学生の悩みをじっと聞いた橋さんは、「大学も仕事も、所属する場所であなたの人生が決まるわけじゃない。どこに行くかにこだわるより、どう生きるかを考えてもいいんじゃないか」とアドバイスしました。この言葉で目が覚めたのか、この学生はそこから精力的に活動し、1月までに複数の内定を獲得。卒業前に橋さんにお礼を言いに来たそうです。 橋さんによれば、経験上、就職活動が難航する学生は、「ホワイト企業かどうかなど条件を偏重し、何となく居心地がよさそうな場所を探している」タイプだといいます。そうした受け身の学生には、「働くとはどういうことか」を原点から教えています。 「本学は『面倒見のいい大学』と言ってもらっていますが、私たちの就職指導が少しでも結果につながっているとするなら、それは『あきらめの悪さ』にあると思います。学生本人以上に教職員があきらめないし、見捨てないという思いを学生に伝え続けています。これも学生が少ないからこそできることかもしれません」 産業能率大学をはじめ、就職支援に力を入れる大学は増えています。「キャリアの立教」を掲げる立教大学は、年間500回を超えるキャリア・就職プログラムを開催しており、1年次から手厚いサポートを行っています。福井大学は就職率の高い国立大として知られており、その就職支援の様子を描いたドラマ「シューカツ屋」も放映されました。 いずれも共通しているのは、大学が学生の内定をゴールにしていないことです。現在の大学の就職支援は、学生一人ひとりの人生を主軸にした指導が主流となっています。橋さんも「まずは学生と信頼関係を築くところから始めます。そして人生相談のつもりでじっくり話を聞いています」と話しています。
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