「ここじゃ無理だよ」。横浜のニュータウンで評判の鮨屋の店主が、街行く人に心配されても、この街で鮨屋を開きたかった理由【店主の休日】
連載【店主の休日】第4回 「鮨 はやたか」林田貴志さん 客たちの心を癒す天国のような飲食店。そんな名店を切り盛りする大将、女将、もとい店主たちは、どんな店で自分たちを癒しているのか? 店主たちが愛する店はきっと旨いだけの店じゃない。 【写真】林田さんのイチオシ「レッドホットチキン」 コの字酒場探検家、ポテサラ探求家などの肩書きで知られ、酒と料理をこよなく愛する文筆家の加藤ジャンプ氏が、名店の店主たち行きつけの店で、店主たちと酒を酌み交わしながらライフヒストリーを聞く連載「店主の休日」。 そこには、知られざる店主たちの半生記と、誰しもが聞きたかった人生のヒントがある......。 * * * ■ニュータウンに果敢にいどんだ鮨屋 「ここじゃ無理だよ」 と、開業前にはさんざん言われていた鮨屋が繁盛している。 創業間も無いときから時折お邪魔している(けっして「俺は最初から知ってたよ」とマウントしているわけではありません)せいか、私まで、なんだか「してやったり」という心持ちだ。「ここじゃ無理」の「ここ」とは一体どこかといえば、それは横浜の郊外にある港北ニュータウンのことである。 このエリアの中心部、横浜市営地下鉄・センター南駅近くに、約3年前に開業した「鮨 はやたか」が、その店である。「ここじゃ無理」という先入観をあっさり覆し、快調にこの街の顔になりつつある。 そもそも、いい鮨屋がありそうな街とはどんなところだろうか。 たとえばそれは浅草みたいな古い街。何代もつづく老舗が思いうかぶ。 日本橋をふらっと歩いていて、ああ、あの小説に出てくる鮨屋さんは、ここだったのかと気づいたりする。あるいは、それは銀座の名店。行ったことはないが、名前だけは飽きるほど聞いたことがある店......。 では、いわゆるニュータウンと呼ばれる街に、旨い鮨屋があるだろうかと考えると、ううむと考えこんでしまったりする。どこの街にも美味い鮨屋がある可能性はあるけれど、ニュータウンと鮨屋という組み合わせは、ちょっと、しっくりこない(ごめんなさい)。 横浜市の北部、港北ニュータウンは、1965年に開発計画が発表された、いわゆるニュータウンだ。全国にニュータウンと呼ばれる街は数えきれないほどあるものの、なかには、先行きが不安なところもあるらしい。そんななか、この街は人口も増加しているし、しっかり成長している。70年代から、時折この街を見てきたが、街らしくなってきたのは80年代以降といっていいと思う。 丘陵地を大規模開発して、計画的な街づくりを進めてきた。車でそのあたりを走ると、いかにも郊外らしい雰囲気の巨大なショッピングモールなどが立ち並び、折り目正しく計画的に開発された街区に大きなマンションや家々が建ち並んでいて、散歩なんかしていると、 「人間ってなんでも作れちゃうのね」 と思ってしまったりする。