日米の物価事情から考えた…日銀の大規模金融緩和「正常化」はいつ?
一方で日本は消費者物価の上昇率を安定的に2%に上げ、インフレと賃上げの「好循環」を定着させるために、2013年以降10年以上、大規模な金融緩和を続けてきた。ロシアによるウクライナ侵攻などの「外的要因」や円安の影響で、2022年には物価上昇率は2%を達成したが、日銀は本当に「好循環」が実現する状況になっているかどうか、慎重に見極めを続けている。 特に植田総裁は、政策変更に関する発信のトーンを微妙に調整し続けている。2023年12月には国会で、「年末から来年にかけて一段とチャレンジングになる」と発言したことなどで、日銀がマイナス金利政策の解除など、早期の政策変更に踏み切るのではないかという観測が一時広がった。しかし、12月の金融政策決定会合で政策修正はなく、植田氏自身も12月19日の会見で「(来年は就任から)2年目にかかるところなので、一段と気を引き締めてというつもりで発言した」と火消しに。マイナス金利解除の時期を示唆するような発言もなく、FRBが利下げに踏み切れば日銀が動きにくくなるという見方に対しても、「Fed(=米側)が動きそうだから、その前に焦って政策変更しておくというような考え方は不適切だ」とけん制した。一方で、その後の12月25日の講演では、「今度こそ、低インフレ環境を脱し、 賃金と物価の好循環が実現することを期待している」とも発言。 植田氏に近い関係者によると、植田氏は「チャレンジング」発言後の市場の反応を見て市場との対話があまり上手くいかなかったことに少し落ち込んでしまった様子だったという。その後の発信を見ても、発言のバランスを取るのに腐心している様子がうかがえる。
■日銀が見極める「賃上げ」・・・政策変更はいつ?
日銀が今後、「安定的な2%の物価目標」の達成を判断する大きなポイントになるのが、物価上昇に賃上げが伴っているかどうかだ。 アメリカでは2023年秋、全米自動車労働組合が、自動車大手各社から「4年半で25%の賃上げ」など、大幅な賃上げを勝ち取った。一方日本の場合、「終身雇用でクビにはなりにくいけど、その代わり給料も上がりにくい」(米市場関係者)という傾向が長年定着してきた。ただ、2023年の主要企業の賃上げ率(春季)は3.6%(厚労省発表)となり、およそ30年ぶりに3%台に。24年春の賃上げなどの交渉=春闘でも、同様の高い賃上げ率になることへの期待が高まっていて、1月5日に行われた経済3団体の新年会では、大手企業のトップからも、去年並みかそれ以上の賃上げを検討するとの声が相次いだ。こうした状況を踏まえ、日銀が政策変更に踏み切るタイミングはいつになるのだろうか。