【プレイバック’14】「STAP細胞問題」で追い詰められ…理研・笹井芳樹氏が遺書に残した〝願い〟
10年前、20年前、30年前に『FRIDAY』は何を報じていたのか。当時話題になったトピックをいまふたたび振り返る【プレイバック・フライデー】。今回は10年前の’04年8月22・29日号掲載の『衝撃自殺 笹井芳樹氏「虚栄からの転落と苦悩」「告白の遺書」』をお届けする。 【画像】「STAP細胞はありまぁす!」記者会見で涙ながらに反論した小保方さん ’14年1月に世紀の大発見として注目された「STAP細胞」。論文を発表した研究者代表の小保方晴子氏(当時30歳)はその美貌と相まって“リケジョの星”として一躍時の人となったが、次々と論文の不備や不正疑惑が指摘され、小保方氏らが所属する理化学研究所は調査委員会を設置。調査の結果、不正があったことを4月に認めると、論文を掲載した英科学誌『ネイチャー』も7月にこれを撤回。8月に入って早々、小保方氏の恩師で論文の著者として名を連ねていた笹井芳樹氏(当時52)が命を絶った。以下《 》内の記述は過去記事より引用)。 ◆小保方氏が検証実験を行っていた施設内で…… 《「笹井先生は首を吊って間もなく、職員に発見されました。すぐに床に下ろして病院に搬送し、心肺蘇生を試みたのですが、残念ながら間に合わなかった。先生の死を知らせる一斉メールを受け取った スタッフたちは一様に混乱しています……」(理化学研究所スタッフ) STAP細胞論文における改ざんと捏造──日本の科学研究史に残る大スキャンダルは、死者を出す最悪の展開を見せた。 8月5日、理研の施設である先端医療センターで笹井芳樹氏(享年52)が自ら命を絶ったのだ》 笹井氏は理研の発生・再生科学総合研究センター(CDB)長で、STAP論文を発表した小保方晴子ユニットリーダーの指導役。折しも隣接するCDBで小保方氏が汚名を晴らすべくSTAP細胞の検証実験を行っている最中での死だった。 笹井氏がこのタイミングで死を選んだ理由の一つとして、この日に発表される予定だった検証実験の結果に絶望したのではないかとの推測があった。検証実験は4月から始まっていたが、笹井氏は日に日に元気をなくしていて「理研を辞めたい」と申し出たものの、「検証実験の結果が出るまでは」と受け入れられなかったという証言があった。 また、7月21日に放送された『NHKスペシャル』で、小保方氏が採用された経緯が不透明だったこと、論文の書き直しに加わっただけで根幹には関わっていないと主張していた笹井氏が、実際には深く関与していたと報じられたことも、彼を追い詰めた一因ではないかと指摘された。その一方で笹井氏の知人は「虚栄からの転落に耐えられなかったのでは」と語っている。 《「今年1月末のSTAP研究に関する最初の記者会見での笹井さんの舞い上がりぶりは相当なものでした。笹井さんは広報に相談ナシで補足資料を配ったのですが、そこには牛や魔法使いのイラストを使って、いかにSTAP細胞がiPS細胞より優れているかが説明されていた」 iPSは牛が無理矢理赤ちゃんを引っ張って生むように強制的に作るが、STAPは魔法使いが魔法をかけるように作るのでマイルド──だというのだ。》 笹井氏は京都大学iPS細胞研究所名誉所長の山中伸弥氏がiPS細胞の開発に成功するまでは、間違いなく再生医学の分野ではスター研究者だったという。STAP細胞なら逆転を狙えると功を焦ったのだろうか。知人はさらに証言する。 《「さらに驚いたのは、笹井さんが小保方さんのSTAP論文の共著者になっていたこと。竹市(雅俊)CDBセンター長も「論文が発表されて、はじめて知った」と言っていました。そして何より理研上層部が疑念を抱いたのが、特許に関すること。笹井さんは、小保方さんらとともに特許の出願者に加わっていたのです。『僕が彼女のケビン・コスナーになる』 などの笹井氏の発言をネットに暴露したのは、彼に嫌気がさした同僚でしょう」 だが結局、「あの得意満面の会見がアダとなった」と知人は分析する。 「先日の『Nスペ』であの鼻高々会見が再び流されたのは、相当ショックだったでしょう。プライドの高い人でしたから、これ以上、笑いものになることに耐えられなかったのではないか」》 研究室に残された遺書には理研のスタッフや小保方氏らに宛てて「疲れた」という内容の文言とともに、次の一言が書かれていたという。 《「STAP細胞を必ず再現してください」》 ’14年12月、理研は4月からの検証実験の結果、STAP細胞は作れなかったと発表した。小保方氏は理研を退職した。 1月に「STAP細胞」の論文が発表されたときには、発見の画期的な内容に加えて、かっぽう着姿で研究したり、研究室の壁をピンクに塗ったりするなど、“美貌の研究者”小保方氏の異色のキャラクターをメディアがこぞって取り上げた。その反動は大きく、論文の改ざんや画像データの切り貼りなどが発覚してからのバッシングは大変なものとなった。 小保方氏をパロディ化したキャラクターで笑いをとったバラエティ番組に弁護士をたてて抗議をしたり、『Nスぺ』の取材スタッフが小保方氏を追いかけまわしてケガをさせたりする事態も起きた。世間からの逆風も、笹井氏の心労の一因となったことは否めない。 今年4月、お茶の水女子大の白楽ロックビル教授は朝日新聞の取材に対し、データの捏造、改ざん、他人の文章の盗用は「’10年代前半は10件前後、’14年から20件以上、’21年は45件と増えています。これは氷山の一角だと思います」と答えている。不正が減らないのは、不正をしたほうが楽だからで、不正をしても見つかる確率が低いからだ、とも指摘した。 「STAP細胞」問題は、われわれが普段知ることのない研究者の世界の〝闇〟の一端だったのかもしれない。
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