台風23号発災から20年 公立大防災センター長に聞く当時の状況と教訓 早めの避難が命を守る
全国的に甚大な被害をもたらし、京都府北部を襲った2004年の台風23号。福知山市内でも2人の尊い命が奪われた。発災から20日で丸20年。当時、消防職員として救助活動にあたった、前市消防長、福知山公立大学地域防災研究センター長の水口学さん(63)に、当時の状況や災害の教訓などについて聞いた。
Q…04年水害の被災状況は A…記録的な豪雨の影響で、由良川の福知山水位が7・55メートルまで上昇し、由良川の堤防未完成区域からの外水氾濫に加え、中小河川の内水氾濫もあり、大規模な浸水被害が発生しました。大江町では町の4分の1の家屋が1メートル以上の浸水被害を受け、国道、府道など幹線道路は冠水。山間部では土砂災害も発生しました。 Q…当時は消防職員です。被災時の活動内容は A…北本町一区にあった旧福知山消防署に勤務しており、出動隊として対応に追われていました。119番通報は鳴りやまず、キャパオーバー寸前の状態。消防署自体も浸水する恐れがあったため、大型車両を避難させたほか、山からの水が家屋に入るのを防ぐため消防団と一緒になり、土のう設置などの作業も行いました。また、浸水による孤立集落や自動車に取り残された方々の救助にも、ボートなどであたりました。 Q…04年水害から得た教訓は A…最大の教訓は「避難の重要性」です。昭和28年(1953)の「28水」以来の大きな災害で、市民のみなさんには過去の災害を教訓に危機意識を持つことを忘れないよう啓発してきましたが、2004年水害では避難勧告や指示に対し、実際に避難したのは必要世帯のわずか8%でした。 この避難の遅れが救助要請の増加につながり、早めの避難行動が命を守るために必要だと痛感しました。そこで12年、市消防本部では過去の災害を忘れず、常に危機意識を持ってもらいたいと、東羽合の市消防防災センターの2階に市防災センターを開設しました。 Q…福知山は13年からの5年間で4度もの水害に遭い、23年8月台風7号豪雨でも大きな被害を受けました。近年の水害で、過去の教訓が生かされたところはありますか A…福知山市では、過去の災害の教訓から由良川による外水氾濫と内水氾濫に警戒していましたが、台風7号ではこれまでとは異なり、山地部小規模流域からの土砂、洪水氾濫により被災しました。 しかしながら、いくつかの地域で過去からの災害を教訓に生かされた事例もあります。例えば夜久野地域では、防災マップや独自の避難スイッチにより、指定避難所が開設される前に自主的に避難する行動につながりました。また、大江地域では、市と連携して要支援者の個別避難計画を作成し、台風7号の時に実際に実行され、一定の成果が見られています。 このように、市と地域が一体となって災害対応ができるのは過去の被災経験がある福知山市の特徴で、自助・共助・公助の取り組みは全国的にもトップレベルだと思います。 Q…21年4月に開設した公立大学地域防災研究センターではどのような研究をしていますか A…市民のみなさまや行政の防災力、危機管理能力の向上に寄与していくことを目標に、大学が有する地域経営学部と情報学部の知見を活用して、地域防災に関する現状把握、課題、対応策などの研究をしています。現在は、携帯電話会社が保有する人流データから過去の災害時における市民行動の分析などに取り組んでいます。 26年度から27年度で、研究成果の報告や地域防災のあり方への提言をまとめて公開したい。私自身の役割は大学、行政、市民を円滑に連携させることだと思いますので、市民との意見交換を積極的に行い、地域に貢献できるセンターにしていきたい。
【略歴】水口学(みずぐち まなぶ)=福知山市生まれ。府立石原(現府立工業)高校卒業後、日本国有鉄道を経て、1987年度に市(消防本部)へ入庁。消防本部警防課長、市危機管理室長などを歴任し、2019年度から消防長を務め、23年度から現職。