定数是正と一票の格差をどう考えるか 政策研究大学院大学教授・飯尾 潤
最高裁判所が前回の参議院選挙について、定数不均衡のため違憲状態で行われたという判決を下した。すでに衆議院選挙について、違憲判決も出ていたが、いくらか是正しただけで総選挙が行われている。定数是正と一票の格差について、どのように考えればいいのだろうか。 定数とは議会の議席数のことである。これを選挙区に配分するのが定数配分であるが、有権者数と定数の比率が全国的に一定ではないことが起こる。たとえば昔の人口配分をもとに定数が決まっていると、人口の増えた都市部などでは有権者数に比べて定数が少なく、過疎地域などでは有権者数に比べて定数が多く配分される。これを有権者の方から見れば、票が軽くなったり重くなったりしているのである。これが投票権の平等を定めた憲法の理念に反する定数不均衡であり、平等に改めるのを定数是正という。 ところが、現在の定数配分で選ばれている現職議員は現状維持を望み、定数是正の動きが鈍い。そこで、違憲判断に消極的だとされてきた日本の最高裁判所すら、定数の不均衡を違憲あるいは違憲状態だとまで判断することになったのである。 実は衆議院の選挙制度に関しては、2012年の総選挙以降、0増5減といわれる是正措置が執られている。これは、人口が減った県から議席を1つずつ減らして5県で議席を減らすことで、総定数を減らしつつ定数を是正する改革である。しかし、その間の人口変化もあり、格差は減るものの一票の価値に2倍以上の格差が残ってしまう。不十分な改革だと言われるゆえんである。
そこで、最高裁判決は、衆議院の定数配分における「一人別枠方式」をも問題にしている。これは、小選挙区の配分を考えるとき、まず都道府県別の定数を定めるのであるが、そのときにすべての都道府県に1議席を配分してから、人口比例の計算をする方式である。たとえば計算上は1議席しか配分されない県でも、最低2議席は配分されるということで、人口の少ない県を優遇する方式である。これをやめて、比例配分を徹底させれば、理論的にはより平等な配分が可能となる。そもそも都道府県別に計算せず、ブロック別に計算して、複数の都道府県域にまたがる選挙区が設置できるようにした方が、より格差の少ない配分ができるという論点もある。もっとも、人口移動に従ってあまりに頻繁に選挙区が変更されると、政治家と有権者の関係が薄くなりがちなので、定数不均衡は2倍を超えないように、時に修正するというぐらいが現実的であろう。 もし現職議員に任せておいては、2倍以上の格差を出さないという改革すらできないのであれば、法律で要件を定めた上で、国勢調査の結果などに従って、第三者機関が計算したとおりの選挙区配分を自動的に実施する方式が望ましいのではないか。 ところが、最近では大都市と地方の格差を理由に、定数是正そのものに対する批判もある。人口が減っている地域の議席を減らせば、その利益を代表する議員が少なくなって、ますます地方が寂れるというのである。一見もっとものようだが、この議論を始めると収拾が付かなくなる。たとえばこれまでも何回も定数是正は行われているので、どうしてこれからだけ是正をやめるのかという問題もある。あるいは、代表が少ないから不利だということになるのなら、少子化で数の少なくなった若者をもっと優遇すべきだとか、将来世代の代表をどう考えるのかという問題まで出かねない。結局のところ国会議員は、地方代表ではなく、国民全体の代表後いう建前もあり、一票の価値は平等であるべきだという原則を崩すことは難しい。