「昔ながらのコーチは立場がない状況に」…スマホの普及がアスリート育成を変え、「監督がAIに置き換わる」可能性も【石井光太×為末大】
人間にしかできないこととは
石井 不規則な動きができると怪我もしにくいですか。 為末 「ジストニア」をご存じでしょうか。ジストニアはどのような理由で起きるかわかっていないのですが、一つの説として単一の動きをずっと繰り返しすぎてそれを避けるようになると起こるというものがあります。同じ動きを繰り返し続けるのは、人間の体だけでなく、機械でもそうですけど、あんまり良くないんだろうなとは思います。 質問 「AIの進展が教育やアスリートの育成にどのような変化を与えると思われるでしょうか」(おふたりへの質問) 為末 AIのインパクトは大きいと思います。AIの開発が進むとトレーニング中に漠然とした勘で判断されていたものが、数値を計測でき、かつ最適解を出してくれることになる。スポーツは現場に選手がいて、コーチがいて、さらに監督がいます。上に上がれば上がるほど、数値化された情報が集まりやすいので、人間の監督がAIに置き換わるんじゃないでしょうか。最初に監督がAIになり、次にコーチがAIになり、プレイヤーだけ最後まで人間である……実は会社の経営もそうなる可能性はあるなと想像しています。数値を基に判断するところは、AIの方が優れているはずで、現場は身体的な感覚が残る世界になる。そんなこともあるかなと思ってます。 スポーツだけにとらわれずに広く見ると、結局AIの議論は、人間にしかできないことは何か、に尽きると思います。私は、「察する」ということ、人間の感情などを察して相互にコミュニケーションを取ることなんだろうと思っています。 前編「なぜ偏差値の高い学校では『チームスポーツ』が盛んなのか “体育座りができない”“上手に転べない”…運動能力の低下がもたらす子どもたちの危機【石井光太×為末大】」では、「教育現場」「スポーツの現場」の両面から子どもたちの運動能力低下の実態に迫る。
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