ロシアと北朝鮮が「包括的戦略パートナーシップ条約」締結:インド太平洋地域の安全保障環境の悪化に
ウクライナへの兵器支援の方針を見直すとの韓国の表明にロシアは強く反発
「包括的戦略パートナーシップ条約」にいち早く反応したのが韓国だ。韓国は20日、ウクライナに対する兵器支援の方針を見直すと表明した。今までは殺傷兵器の提供を控えてきたが、直接供与を検討するとした。 これに対してプーチン大統領は、韓国がウクライナ支援で方針を転換すれば、報復措置を行う考えを示唆した。さらに韓国と北朝鮮を念頭に、「ある国がロシア国内を攻撃できる兵器をウクライナに供与した場合、ロシアもその国と敵対する国への兵器供与を検討する」と表明した。 また、ウクライナ戦争については、現時点では、北朝鮮との相互支援を規定した新条約は適用されない、との見方を示した。「北朝鮮からは兵士派遣を含め支援は必要ない」と主張し、北朝鮮から兵士の派遣は受けないとの認識を示した。 米国と韓国の当局者らは、ウクライナ戦争で北朝鮮がロシアに提供している砲弾や短距離弾道ミサイルの見返りとして、宇宙関連技術やその他の先進的なシステムをロシアが北朝鮮に提供する可能性があると見ている。
中国の北朝鮮への抑えが効かなくなる懸念
北朝鮮の軍事的脅威にさらされる日米韓などの国々が警戒するのは、北朝鮮がロシアと接近することで、北朝鮮の核開発を抑える中国の影響力が低下してしまうことだ。 中国はロシアと関係を深めつつも、北朝鮮を加えた3か国が一体であるとみなされることを避けてきたとされる。北朝鮮が目指す「核兵器の小型化・軽量化」、「戦術核兵器の開発」、「超大型核弾頭の生産」には追加の核実験が必要になるが、2017年9月の6回目の核実験を最後に北朝鮮が核実験を行っていないのは、中国がそれを阻んでいるため、との見方がある。中国は、北朝鮮の各種ミサイルや軍事偵察衛星の発射などは黙認しても、核実験は断固として許していない。それは、東アジアで韓国や台湾、日本にまで核保有国が広がってしまう恐れがあるからと考えられている。 しかしロシアの強い後ろ盾があれば、中国が反対する中でも北朝鮮は核実験を断行し、周辺国との緊張を高める恐れがあるのではないか。ロシアと北朝鮮の「包括的戦略パートナーシップ条約」締結には、そうしたリスクがある。 (参考資料) 「ロシア・北朝鮮「同盟」で始まる角逐 次の焦点は核実験-編集委員 峯岸博」、2024年6月21日、日本経済新聞電子版 「プーチン大統領、韓国がウクライナに武器供与なら「適切な判断下す」と報復示唆…北朝鮮に派兵は求めず」、2024年6月21日、読売新聞速報ニュース 「プーチン氏、北朝鮮への兵器供与「排除せず」 韓国にも警告「大きな間違いになる」」、2024年6月21日、産経新聞速報ニュース 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英