パンクなふたり出版社・点滅社代表の屋良朝哉が語る"鬱"と"編集"「憂鬱で死にたくなっているくせに、憂鬱のおかげで生きられている気がするんです」
屋良 それが、全然ないんですよね......。正直、ぼくもちょっと精神の回復を期待しつつ本を作っていたところがあったので「ココまで何も変わらないなんてマジかよ」って感じなんですけど(笑)。本が完成した瞬間は、やっぱり気持ちが昂(たかぶ)ります。でも、こころの99%はやっぱりしんどくて。残り1%で感じられるカタルシスがあるから頑張れている、という感じですね。 客観的にはサクセスストーリーを歩みはじめたように見えるかもしれませんが、憧れられるようなことは何もないです。『鬱の本』が売れたのは良いことだけど、会社を続けられないくらい赤字経営だったのが補填されただけで、ぼく自身の月収は4万円。相変わらず気分の波はハンパないです。......って、はじめから夢も希望もない話をすみませんね。 ――いえいえ。今回は、話題を呼んだ『鬱の本』を軸に、"鬱"と"編集"をテーマにお話をうかがえたらと思っています。同作は、2012年に夏葉社さんから刊行された「冬」と「本」にまつわるエッセイ集『冬の本』から着想を得て制作されたそうですね。 屋良 あ、はい。『冬の本』は、本好きな84人の著者の方々によるエッセイ集で、一編が約1000字と短く、とても読みやすいんです。ぼく自身、本を読みたくても読めないくらい憂鬱な日がたびたびあるのですが、これくらいの文量なら、しんどいときでもパッと手に取って読める気がして。これの鬱バージョンを作れば、ぼくみたいに憂鬱を抱えやすい人たちへの"おくすり"みたいな本になるんじゃないかと思い、企画書をまとめました。 『冬の本』へのリスペクトを込めて、同じ84人分のエッセイを収録しようと決めたのですが、これが大変でしたね......。お願いしたい方全員にご連絡するのに3ヶ月はかかったと思います。途中で憂鬱がジャマをして、何度も手が止まりそうになりました。こんなに大変だと分かっていたら、最初から諦めていた気がします。 片っ端からオファーしたものの、結局83人までしか決まらず。入稿も迫っていたので、止むを得ずぼくのエッセイを載せて無理やり84人に揃えました。本当は、書くつもりなかったんですけど。 ――83人もの方に依頼を受けてもらえただけでもスゴいですよ! それに谷川俊太郎さんや町田康さんなど、著名な方も多く参加されていて、人選にもこだわりが感じられます。 屋良 ありがとうございます。ここまで豪華なお名前を並べるつもりはなかったんですが、ぼくの憂鬱を表現で救ってくれた人たちには絶対にお声がけしたくて。相手してもらえないだろうな......とダメもとでご依頼し続けていたら、いつの間にかスゴいことになっていました。重版できたのも、そういった方々がたくさんRP(リポスト)や宣伝をしてくださったおかげです。本当に運が良かったですね。 ――なかでも大槻ケンヂさんは、社名の由来にされるほど影響を受けた方だと、前回のインタビューでうかがいました(社名の由来は大槻ケンヂ率いる筋肉少女帯の楽曲「サーチライト」から)。そんな方にもご執筆いただけたなんて、うれしすぎますね......! 屋良 は、はい。もう、めちゃくちゃうれしかったですね。オーケン(大槻ケンヂ)さんにお声がけすることは最初から決めていたんですけど、実際にご依頼のメールをお送りするまでには、かなり時間がかかりました。何度も文章を書いては消して......まさに、ラブレターを送るような気持ちでした。 その後1ヶ月ほど音沙汰なく、「やっぱりダメだったかなー」と諦めかけていたところ、急にお返事をいただけたんです。震えました。「うおおおおお! すげーっ」「ほ、ホントに......?」って。狭い部屋をウロウロしながら、ひとりずっと叫んではしゃいでいました(笑)。 ――うわぁーっ、いいですね......! 興奮のあまり部屋を動き回ってしまうの、何だか分かる気がします(笑)。いやぁ、良い話だなぁ。