開業時意識、ときわ台駅舎リニューアル。こうして常盤台は高級住宅街になった
高度経済成長、バブル……時代の変化で必要になった景観ガイドライン
「当初の常盤台は、決して高級住宅街を意識していたわけではありません。歳月を重ねることで“高級住宅街”と認識されるようになりました。常盤台がそこまでの評価を得るようになったのは、なによりも街の設計が優れていたこと、そして良質な住環境と街並みを長く守ってきたからだと思います。常盤台の特徴は、何と言っても道路と緑です」と話すのは、NPO法人ときわ台しゃれ街協議会の中島淑夫理事長です。 NPO法人ときわ台しゃれ街協議会は、2007年から常盤台の景観や住環境の維持に取り組んできました。近年、こうした景観や街並み保存といった意識は強まっています。 東京都が景観や街並み保存の取り組みを本格化させたのは、石原慎太郎知事(当時)の時代にまで遡ります。雑多な東京の街並みに嫌悪感を抱いていた石原知事は、美しい東京を目指すべく「東京のしゃれた街並みづくり推進条例」を制定。制定された条例に基づいて、街並み景観重点地区を指定していきました。そして、指定されたエリアでは、NPO団体や財団法人が街並みや景観維持のガイドラインを作成し、それらを住民ルールとして運用することになったのです。 中島理事長たちも「ときわ台景観ガイドライン」を作成。同ガイドラインでは、常盤台全域で「道路から見える場所に、一本以上、できるだけ多くの高木を植栽」という共通方針を設け、住宅地は敷地面積に応じて緑化や植栽の基準を設定しました。また、商業ビルやオフィスビルにも屋上看板や路上への置き看板などに規制を設定。個人・法人が一致団結して街並みを守ろうとしています。 ときわ台しゃれ街協議会は都から認定を受けた団体ですが、だからと言って勝手にルールを制定できるわけではありません。あくまでも、地域住民の同意が必要です。常盤台が造成された当時なら、こうしたガイドラインは不要だったかもしれません。しかし、住民の世代交代や時代の流れもあって、常盤台の街や住民たちの意識も否応なしに変化しました。 「常盤台を大きく変えた、もっとも大きな要因は地価の高騰です。高度経済成長やバブルを経て、常盤台の不動産価格は一気に上がりました。そのため、相続や固定資産税の関係で、家屋や土地を手放してしまうケースがあります。ほかにも転居といったやむを得ない事情もあります。協議会は土地が細分化しないよう、相続や売却などの際にも一区画を123平方メートル(約37坪)以上にすることを定めています」(中島理事長) 造成当初の常盤台では、住宅地は100坪前後を確保する取り決めになっていました。今般、都内の戸建て面積は狭小化傾向にあり、100坪の住宅用地はお屋敷ともいえる広さです。そんな広大な住宅を所有・維持できる人は多くありません。 そうした時代の変化を踏まえて、同協議会のガイドラインでも敷地面積は緩和。それでも現在の住宅事情に照らし合わせれば、37坪の敷地を有する住宅は一般的に大きな住宅と言えます。 住環境や景観を守るために作成されたガイドラインですが、法的な拘束力はありません。あくまでも同協議会と住民との話し合いのルールです。そのため、大きな住宅地を維持できない所有者も出るようになり、これまでの常盤台の街にはなかった月極駐車場も見られるようになりました。また、所有はしているものの敷地内の樹木管理が行き届いていない住宅も増えています。 そうした事態を少しでも食い止めるべく、同協議会は千葉大学園芸学部の協力を得て「みどりのガイドブック」という緑化の手引書を作成。同ガイドブックは、誰もが実践できる身近な緑化や補助金制度を紹介する内容で、住民の緑化意識を高めることに一役買っています。 今般、都は無電柱化への取り組みを加速させています。無電柱化には景観の向上という目的も含まれており、常盤台をはじめとする景観・街並み保存も同意義の取り組みといえるのです。 小川裕夫=フリーランスライター