<挑む・センバツ2023東邦>元NHK高校野球解説者 OB・大矢正成さん 一投一打、思いぶつけて /愛知
◇「恩返し」に参考本20冊 阪神甲子園球場で開催中の第95回記念選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高野連主催)第7日第2試合(24日午前11時半開始予定)に登場する東邦。OBで昨夏までNHK高校野球解説者だった大矢正成さん(63)は母校の活躍に期待を寄せている。中立が求められる解説者ではなくなり、大矢さんは「後輩たちにも東邦らしい粘りの野球を見せてほしい」とエールを送る。【黒詰拓也】 東邦が甲子園に出発する前の今月11日。東郷町の東邦グラウンドで練習試合を観戦した大矢さんは「母校への恩返し」として、明徳義塾高(高知)の馬淵史郎監督やプロ野球の名監督・野村克也さんらによる野球の練習、指導方法に関する書籍、約20冊を山田祐輔監督(32)に託した。捕手出身らしい深みのある分析とユーモアあふれる解説でファンも多かった解説者時代の大矢さんを支えた書籍だ。 託した1冊には、東邦の組み合わせを考え高松商(香川)の長尾健司監督の著書も入れた。すると、大矢さんの期待通り東邦は鳥取城北との初戦を6―3で勝ち、2回戦で高松商と対戦することに。大矢さんは「相手は好投手を擁する難敵。長尾監督の野球観を知って試合に臨んでもらえたら」と語る。 大矢さんが母校に感謝の気持ちを抱くのは、野球人生の「原点」があるからだ。入学した直後の1975年初夏、部員間での暴力行為が発覚し、1年間の対外試合禁止の処分が下された。周りに勧められた地元一宮市の進学校ではなく、東邦を選んだ大矢さんにとっては「奈落の底に落ちた」気持ちだった。それでも、当時の監督で現在は大垣日大(岐阜)で指揮を執る阪口慶三監督(78)の熱意に感化され、猛練習に耐えてきた。 処分が明けた翌年の77年春。「バンビ」の愛称で知られる坂本佳一さん(61)が入学。初めて投球を受けたときにミットからボールをはじいたという。その夏の県大会決勝では「長い野球人生で一番活躍した」と振り返るほど、大矢さんが攻守で引っ張り優勝。甲子園では坂本さんとのバッテリーで、準優勝を果たした。卒業後は法政大から国鉄名古屋に進み、JR東海の監督を務めた。 大矢さんは「がけっぷちからはい上がった経験がその後の野球人生につながった。思い通りにいかない時でも、最後までやり抜くことで結果はきっとついてくる」。どん底から甲子園準優勝まで勝ち進んだ経験は、人生の道しるべになった。 解説者という立場ではなくOBという立場で観戦できる母校の甲子園。純白の胸元に「TOHO」とあしらわれたユニホームは自身の高校時代から変わっておらず、見るたびにうれしく、感慨深くなる。高松商との一戦は仕事でアルプススタンドに行くことはかなわないが、「ひたむきに一投一打に思いをぶつける東邦のプレーを見たい」とテレビ中継を録画してじっくり楽しむつもりだ。